お見舞いで兄の隣に寝泊りしていたとき、病院が火事になり、目が覚めたときには、兄はいなくなっていた。十年前のことで、その頃の記憶はないのに、秀人は未だ悪夢にうなされるときがある。
ある日、ふと手にとった旅行雑誌の写真をみて、秀人は驚いた。病弱だった兄が入院していた病院への道と同じなのだ。あの頃の記憶を求め、秀人はひとり、その場所へと向かったが、いつの間にか遭難して……
銀髪で紅い瞳をした亜里沙と、黒髪で蒼い瞳をした和葉という二人の少女と、トラウマを抱えた秀人の奇妙な入院生活を綴ったお話です。
少女は二人とも施設の外を知らないため、秀人に興味津々で、秀人も普段は寂しい生活をしていたので、入院しているにも関わらず、会うのが楽しみになっていく様子が伝わってきます。
特に、記憶障害を持つ和葉とのやり取りは、初々しくていいですね。いいところを見せようとする姿には共感しちゃいます。さりげなく、秀人と和葉を二人っきりにさせてあげる亜里沙もいいな。
特に何があるってわけでもないのに、スっと入り込んでくる素敵な雰囲気で進んでいた物語でしたが、ひとつの事実が発覚してからは、がらりと変わったのが印象的でした。内情についてはわりと序盤のほうで想像がつくんですが、そっち方面に行くとは思っていなかったので、ちょっとした描写に不安をかきたてられてしまいました。
離れることと留まること。どちらが幸せなのかは、難しいと思います。幸せは人に決められるものじゃないけれど、周りから見ているからこそわかることもあるだろうから。どちらの気持ちもわかるだけに、心情や実情については、きついものがありますね。
ただ、状況を説明するだけのシーンが結構多かったのが、ちょっとなあ。個人的には、各人の心情をもう少し掘り下げてほしかったです。幻想的なところも、無くてよかった気がしないでもない。
ひとつの結末を迎えて、日常に戻った後、忘れられない思いに捕らわれてしまう秀人を見ていると、相変わらずだなあと、成長してない感じがしましたが、それはこれから始まると考えるべきなのかな。
そのあたりで、ちょっともやもやするものがありましたが、最後のシーンにはニヤリとさせれました。
マルアークの種~片翼の記憶~
細江 ひろみ
ソフトバンククリエイティブ(文庫)
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