— 安うて、美味しいて、みんなに喜んで食べてもらえるもんがええなあ。
何かを美味しい、と思えれば生きることができる。たとえどれほど絶望的な状況にあったとしても、そう思えばひとは生きていける。
大阪でも名の知れた料理屋に奉公し、女だてらに厨房に入ることを許された澪が、訳あって江戸へやってきて、そば屋「つる屋」に奉公するお話です。
これはとても良かった!
幼い頃に両親を亡くし、大阪から江戸へ渡ることになり、料理の腕前はあっても女などと言われることや、江戸の風味に慣れるのに時間を要したりと、多くの苦労を重ねるんだけど、そんなとき出会う人が彼女を支えてくれてくれるんです。これが何と温かいことか。
それまではただ美味しい料理を目指していた澪でしたが、職人さんの手に取りやすい値段で、あるいはお世話になっているご寮さん(奉公先の女将さん)のために滋養のあるものをなどなど、美味しさ以外の付加価値もつけるため、毎回新しいことに挑戦しては失敗して、下がり眉をさらに下げて、恥をかき、それでもめげずに試行錯誤していく。その過程を見ていたら、応援したくなるし、何より澪の作ったものであれば、一口食べてみたいと思うようになっていきます。これほどの思いが込められた料理が美味しくないわけないじゃないですか!ああ、こうやって人は成長していくんだなあとしみじみ。
またね、クセがあってぶっきらぼうだけど、迷う彼女を導いてくれる小松原さんが良い男なんだ。素晴らしい舌を持っていても、お客さんに気に入って貰えるものが作れるかはわからない。澪の迷いを料理の味から見抜いて、ヒントを出してくれる姿は、僕だったら惚れるね、ええ間違いなく。四編収録されているうちの初めのお話しで、最後に言葉にならず、すべての思いを込めて礼をした澪と、返ってきたぶっきらぼうな言葉に、じんわりでした。
本物の味を知って打ちのめされても、時にライバル店から八つ当たり以上のことをされても、諦めることなく、自分の料理を作り続けていき、大ヒットしたときや、料理がきっかけで懐かしの人の行方を知ったときなど、大きな感動をもたらしてくれるものがありました。素敵な素敵な物語です。
どうやら、続刊も出ているようなので、手を伸ばしていきたいと思います。美味しそうな料理と、人情ものが好きな人にお勧め。
八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
高田 郁
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