気のせいに違いない。
一瞬、抱きしめられたかもしれない、なんて。
でも。
一生忘れない。
この思い出だけで一生生きていける。
伯父の叛逆により追われる身となったルディーンの前国王の娘ファーラの前に、二人の傭兵が現れた。隣国へ嫁ぎ王妃となった伯母の命により、ファーラを保護し、伯母の元へ送り届けるという。石の声を聞き石の花を咲かせるルディーン王国の王族の証を持ってきた二人を信じ、ファーラは、お気楽セルツァと無口なダリオンと共に旅立ったが……というお話。
これは素敵なラブロマンス。伯母の命を受けたふたりの傭兵にはそれなりに心許しつつも、立場が故に心の底から人を信じることが出来ないファーラが、いつしか無口な男に惹かれていく……たまらないです。朴念仁で言葉がうまくなく、真っ直ぐすぎて愚直にも思えるダリオンのことを、初めは無礼と思っていたのに、彼の過去の断片に触れ、もっと知りたいと思うようになってからの秘めた思いはもう……。
一方のダリオンは、過去の出来事から王族を憎み、でもファーラはそんな王族とは異なり、かつて騎士だった頃の、敬うに値する人であるため、どういう態度を取るべきか揺れながらも、心は完全に……ね。それでも、立場から距離を置こうとする様を見てると、なんと不器用なことか。
ファーラは隣国に許嫁がいる。ならば、この思いは……と閉ざしながら、ふとした瞬間にふたりっきりで過ごしたときの様子を、心に刻もうとするあたりが切なくてきゅんとなった。ああもうドキドキが止まらない。
思いを自覚しながら、どうしても一歩踏み出せない二人の間にいたセルツァは、一番苦労したろうなあ。お気楽に見えていろいろ気を遣う彼が、それぞれをけしかけ続けたからこそ、最後のシーンがあったんだと思います。初めこそ強気だったファーラは、思い悩むにつれて弱さを見せていたけれど、好きな人の為に戦う姿勢を見せたとき、恋する乙女の格好よさに惚れ惚れとなりました。
この三人以外はいい人が全然出てきませんでしたが、まあ、なんだ、ハッピーエンドで良かったよね。うん。
宝石姫は微笑まない。 (一迅社文庫アイリス)
本宮 ことは
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