忘れ物を取りに、地梨琢己は夜の学校へと忍び込んだら、音楽室からピアノの音が聞こえてきた。そっと覗いてみると、そこには、ところ構わずだしぬけに楽器を演奏するといった突飛な行動で名高い音城トリル先輩が!係わり合いにならないほうがと思っていたのに、つい声をかけてしまい、気づけば先輩に友人判定されてしまった。
そして地梨琢己は、トリル先輩の演奏パートナーとして、アンデスという楽器を使って、彼女が敬愛するサティの曲を合奏することになったが……。
音楽をやめた少年が、サティを愛する少女に振り回されていくうちに、音楽の楽しみを思い出していく、というお話。
これは最高でした!
奇行が目立つという先輩は、たしかにちょっと強引なところがあるかもしれないけれど、自分の思う音楽というものに対しての真摯な態度がとても素敵なんです。周囲の人に理解されないことを知りながら、それでも突き進む姿には、心打たれるものがありますね。
今まで平凡に過ごしていた琢己が、振り回されることを嫌い、そっと抜け出そうとしたとき、笑顔で手を振った彼女の姿は、あまりにも優しくて、あまりにも寂しくて。あのシーンで、僕はトリル先輩に惚れました。
そんなトリル先輩に引きずられるように、昔やめた音楽に再び触れていく琢己が、合奏の面白さに、だんだんと惹かれていく展開がすばらしくて、ああ、自分も何か楽器を弾ければと、今日ほど思ったことはないです。
「音楽の神様の呪い」とは、言い得て妙で、なるほど、一度、合奏の楽しさを知ったら、離れられないんだろうなあと思いました。
先輩と仲良くなるにつれて、子供のころ音楽教室で一緒の時を過ごし、今ではプロとなった七瀬凛音との間にあった確執も、無くなっていくんですが、二人の天才に囲まれたことで、逆に自分の凡夫を実感してしまい、引け目を感じるように距離をとってしまうところが、何とも言えない気持ちになる。
そんな琢己が、とある事情を知ってから、一大決心をするあたりに、彼の大いなる成長を感じました。そうだよ、君は確かに二人のような天才ではないかもしれない。でも、だからといって、君の力が及ばないわけじゃない。君だからこそできることだってあるんだよ。
二人の天才に振り回されたけど、最後にひとつにまとまったセッションに、鳥肌が立つほどの感動がありました。
いやあ、すばらしい!
演奏のすばらしさもさることながら、人と人の思いもまたすばらしいものがありました。周囲からはいがみ合ってるように見えたトリルと凛音が、尊敬し合っていることが伝わってくる気障なやり取りに、涙がじんわり止まらなかったです。
あー、面白かった。超オススメ!
ぶよぶよカルテット
みかづき 紅月
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