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[朱門優] ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。

「いちこ?」
「わ……わた、くし……と……」
ようやく上げられたいちこの顔。
暗がりの中ですらはっきりとわかるほど、その顔、その耳までもが朱に彩られて。
まるで押し寄せる弱気の虫を吹き飛ばすかのように、大きく息を吸い込んで。
「わっ、わたくしと―『お見合い』なさってっつ!!」

いつも人をペット扱いしてくる幼なじみの巫女・穂積之宮いちこに誘われて、日輪が「お見合い」という名の十五夜草町で行われるお祭りに参加していたら、ふたりのあとをアネモイと名乗る少女が、ついてくるようになって……という夏休みのお祭りの一週間を描いた青春物語です。

これは、面白かった!
おしとやかな傍若無人な幼なじみとの関係が、「わんちゃん」なんて呼ばれるぐらい主従関係になっちゃってますが、そんな彼女が、わざわざ彼とお祭りに行こうと言い出すんですから、気持ちを推して知るべし。ま、当然のごとく輪は気づかないわけですが、それはそれ。なで俺をと言いながら、町を歩き回る二人のやり取りがすっごい楽しかったです。そこに会話のかみ合わないアネモイが入ってきたら、もう!
輪の地の語りを含めて、読んでる間、ニヤニヤ笑いを止めるのが難しかったです。

十年ぶりとはいえ、そもそも「お見合い」とはどういうお祭りか、ということを輪が忘れてること自体、どうかと思ってましたが、なるほど、そういう理由があったのかと思えるのはかなり終わりのほうだったので、読んでる間は、どうにも消化できないイラだちを感じていたんですが、そんな彼を思ういちこの気持ちがみえるところが、ほんと良くて。

時折語られる幼いころ遊んだ思い出の微笑ましさと温かさを感じてしまったら、「彼」が見失ったものを、もう一度見せてあげたいと思う気持ちがわかりますよね。

でも、そんないちこの思いに、輪は気づけず。気づかず。
ようやく彼女のために、という気持ちが生まれてきたのに、それ以上踏み込めないところに、バカと思ってしまいましたが、思い出してからの輪の行動は、熱かった。それを支えた友の手もまた同じように熱かったです。
それまでのやり取りから、急激に熱くなりがやってくれるから、グッとくるのを止められなかったですよ。道化だと思ってた陛下が、格好よくてたまらない。

いやあ、面白かった!
「お見合い」の意味が見えてきて、どこか閉ざされていた輪の心が開けていくところに、今まで口に出すことができなかった感謝の言葉を告げる輪の姿に、じんわりさせられました。
こういう雰囲気の作品大好き。

ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。 - 朱門 優

ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。
朱門 優

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