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[杉井光] 死図眼のイタカ

「おまえは、ちがうんだ。おまえだけは、ちがう。逃げられるんだ」
夏生は封筒に目を落としたまま言う。
「おまえは朽葉嶺の婿だろ。おまえだけは、ここから出て行ける」
「どういうこと?僕が……出て行っても、他の分家から代わりが来るから、ってこと?」
「そうじゃない。そういうことじゃない。朽葉嶺には婿なんて必要ないんだ」

伊々田市を支配する一族・朽葉嶺家に、跡取りとして養子入りさせられたマヒルの妻を、幼いころから共に暮らしていた四つ子の姉妹から選ぶという儀式が近づいてきたある日、町で女子高生が、惨殺される事件が連続して、その現場でマヒルは、黒衣にスケッチブックを持った少女と出会い……というお話なんですが、痛いです。ほんきで心が抉られる気がしました。切ないという感情が、生ぬるく思えるほどです。
特にはじめがいい雰囲気だったから余計そう思えるんだろうなあ。

マヒルは妹としてしか見ていなくとも、姉妹たちは結婚相手としての意識を少なからず持っているので、そこここに、好意が見えるおかげで、やり取りが非常に微笑ましいんですが、そんな雰囲気が、マヒルの母親であり、現当主の早苗が姿を見せるたびに、ゾクっとさせられるんです。そもそも、そもそも共に暮らす姉妹の一人を妻として迎えるしきたりという時点で、若干歪んだものを感じるんですが、それが占家として絶大な権力を握る朽葉嶺家の基盤であることが見え始めてくると、もう……。

一方、猟奇殺人現場やらマヒルの通う学校等で、他の人には見えないのに、マヒルには見えるというイタカと出会うんですが、人の名前が「視える」マヒルの力のおかげで、イタカには嫌われながらも、イタカと同じ姿をした藤咲とは、いい関係が築けてましたよねぇ。朽葉嶺家の名と無関係なところで会話ができる雰囲気は、とても心地よいものがありました。

でも、そもそもイタカが何をしにきたのかというところが見えてくると、自体が一変してきて。
実ははじめから見えていたことだけど、でも、見たくないものが段々と見えてくるところには、もうやめて!と言いたくなるものがありました。あの美しき家計図を見たとき、殺された女の子のために犯人を捜すという決意も投げ出して逃げようとしたマヒルの心は、どれほどの衝撃があったのか、考えるだに空恐ろしいものがあります。
不安が次々に的中し、そちらへ行くなという願いも無残に、容赦なく崩壊されていく展開には、やられるばかりでした。

いやあ、面白かった。
すべてがつながる最後には、なるほどと思いながらも、残酷なものを感じましたが、はたしてマヒルはこの思いをどこまでもっていくことができるんだろう。GOOsという存在が、彼の心をどんな感じで蝕んでいくのかが気になるところです。

それと、今回イタカ方面の話は、ざっくりとしか語られていなかったので、次以降は、そちらも見てみたいですね。彼女もまた大きな傷を心に抱えているんだろうなあ。読むときは、心をしっかり固めておかないと。

死図眼のイタカ (一迅社文庫 す 1-1) - 杉井 光

死図眼のイタカ
杉井 光

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