『はしるはしる、わづかに見つつ、心も得ず心もとなく思ふ源氏を、一の巻よりして、人もまじらず几帳の内にうち臥して、引き出でつつ見る心地、后の位も何にかはせむ』――。
ああ、わかる!わかるわ!この気持ち!
高く積み上げた物語を、まだ続きがある、まだまだ読めると思いながら、次々ページをめくってゆく喜び!無限の高揚感!疾走感!
清楚で可憐な大和撫子、物語を愛する文学少女の天野遠子。彼女が所属する文学部に引っ張り込まれた井上心葉を筆頭に、彼女を取り巻く人々が織り成す短編集の第一弾です。ちなみに上の引用は、超共感してしまったので、長いけど思わず。
これは楽しかった!
遠子先輩に恋する筋肉な男の人の涙なしでは語れない(笑いすぎて)お話や、文学部となぜか関わりが深いボート部との騒動、はたしてチョコは……といったバレンタインデー話など、時に騒動を引き起こすことがあるものの、遠子先輩の熱血と優しさあふれる行動力は、微笑ましい限りです。初めは文学部に来ることを拒んでいた心葉が、少しずつ彼女の笑顔に惹かれていくあたり、まったくもってツンデレさんなんだからとニヤニヤしてしまうこと請け合い。
っていうか、こんなすばらしい先輩がいるのに、ななせに心揺らすんだから心葉ってやつは……。いや、僕ななせ大好きですけどね?
ふたりのお話だけでなく、周囲の人のお話も載っていて、仲の良い男友達に恋をしてしまった「“文学少女”と病がちな乙女」の甘酸っぱさは、すばらしいものがありました。
「きっと今のわたしは病気なんだろうけれど、どんな病気なのかわたしにはわからない。痛みは感じるけれど、傷なんかどこにもない」
なるほど、恋の病とはよく言ったものです。
あのふたりがどうなったのか、想像すると、気持ちが弾んでしまいますね。きっとうまくいっただろうから。
そのほかにも、遠子と麻貴の出会いの事件話があったりと盛りだくさんでしたが、個人的には、美羽と芥川の「無口な王子と歩き下手の人魚」が一番好きだなあ。人に対して距離を置いていた美羽が、子供と触れ合うバイトを通して、再び物語を生み出していくところや、何事も優等生だった芥川が見せた弱さを支えようとした姿に、ああ、このふたりならきっと、とそう思えるものがありました。
何気にいい味出してる芥川姉ににやり。
いやあ、ほんと素敵でした。
ラストの遠子先輩が大学生になったときのエピソードなんて、胸が締め付けられるような切なさと、人への想いから伝わってくる優しさに思わず、じわりとくるものがありました。またイラストが素敵で……。
今回のお話では遠子先輩が中心となるお話が多かったですが、琴吹さん話などは、次の挿話集に収録されるそうです。今から楽しみでなりません。
“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫 の 2-7-1)
野村 美月
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