「アリシア。お前が大事にしている屋敷だから、俺は売りたくないと思っているんだ」
優しさと、なぜか哀れむような感情が入り混じったその眼を見た途端、アリシアを「おなかが痛い」感覚が襲った。
「お前は時々、物分りがよすぎるからな。嫌なら嫌だと、いつだって言っていいんだぞ。どうなんだ?」
穏やかな声で返事をうながされ、アリシアは赤くなった頬を隠すようにうつむいて答えた。
「それは……できれば……売らないで、いただきたい、ですわ」
没落貴族にして「死神姫」と呼ばれる怪奇小説大好きなアリシアと、暴君と名高いカシュヴァーン・ライセンが結婚したら、というちょっとコミカルな夫婦生活を描いたシリーズの第三弾。今回は、フェイトリン五家のひとつ、ロベル家がアリシアの屋敷を売ってほしいと言い出したため、胡散臭いものを感じたご一行が、かの人物の招待を受けたら、そこに待ち構えていたのは、これまで幾度と無くカシュヴァーンたちを引っ掻き回してきたオーデル公爵で、というお話。
アリシアのことを考えているのはわかるんだけど、でも、どこか一定の距離を置こうとしているようなカシュヴァーンの様子に、いったい何を考えているのかと不安になりましたが、個人的には、「おなかが痛い」シーンが少なくて、物足りなかったりする。
アリシアを手放したくないのに、素直になれないあたりが、まだまだですな、カシュヴァーン。
一方のアリシアは相変わらずマイペースで、他の人が聞いたら誤解を招くような発言を(愛人とか首輪とか)してくれちゃうので、同情を集めつつ、カシュヴァーンの評判が下がっていくところに、笑ってしまうものがあります。
ただ、カシュヴァーンが政治のことで悩んでる間、構ってもらえないのはともかくとして、心配しても大丈夫としか言われなくて、さらには、地位的に上の立場である美しき貴公子オーデル公爵が、さりげなくアリシアに手を出してくるので、いつに無くアリシアとカシュヴァーンの間に距離を感じるお話でもありました。
まったく。カシュヴァーンが素直になれば、もっと早く解決できただろうに。
おかげで、なんとももどかしいすれ違いを喰らって、悶々としてたんですが、最後にアリシアがやってくれました。
自身の非道さを自覚していて、自分に囲われるような形で側にいるアリシアを、好きだからこそ、それ以上進めなくなってしまったカシュヴァーンに対して、モゾモゾしながらも「小悪魔な振る舞い」で、相手に思いを自覚させるアリシアが最高でした。
こうなったら、次は、ぜひラブラブな展開をお願いします!
死神姫の再婚 -私の可愛い王子様- (ビーズログ文庫 お 3-4)
小野上 明夜
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