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[高丘しずる] エパタイ・ユカラ 愚者の恋

西倭国の女学校に通っている黎良は、雨宿りをしていたとき、少年から傘を借りた。裕福とはいえないまでも学校へ通える自分と違い、同じ歳ぐらいなのにすでに働いている人の手をした少年の微笑みは、いつまでも心に残っていた。
それは医師になるという夢をかなえるための地で出会った、まだ名もない感情で……

テロが横行している崩壊した日本で、医師を目指して親元を離れて女学校に通う古閑黎良が、恋とテロに出会ってというお話です。200ページに満たないお話でしたが、強烈に惹かれました。
「双子の義理の姉弟」「日本東西分割でレジスタンス」「女子寮での友情」に反応する人は間違いなく買い』というt-snowさんの言葉に偽りなしですね。

寄宿舎では孫悟空と呼ばれるほど男っぽかった黎良が、恋をしていく様が何とも素敵です。押しつけられた仕事から、偶然出会った男性とのやり取りは、黎良の戸惑いが伝わってきて、微笑ましい限りです。まだ、恋と気づかぬ心の内が、他人の恋という言葉から、ふっと頭に思い浮かべた人に動揺する姿が、たまらなく愛らしい。

この愛らしさは、ルームメイトの慧蘭や花霞にもありましたね。特に、これぞお嬢様というワガママっぷりを発揮しつつ、要領のいい慧蘭が、婚約者のことには弱気で、心配をかける黎良には感情をぶつけてと、非常に魅力的でした。
上級生追い出しパーティとか、他の人たちとの交流など、寄宿舎の生活は、楽しいものがあっただけに、もっといろいろ読んでみたかったなあ。

そして、黎良が始めて出会う恋。
同年代の男性に接することの緊張しながらも、笑顔に安らぎを感じて、もう一度会いたいと願う姿は、認めなくとも恋する乙女でしたね。自分の気持ちの変化に恐れをなして、引っ込み思案になる様は、とても寮生から孫悟空と呼ばれるほどの人には思えません。
こういった内面の移り変わりには、何とも微笑ましくさせられましたが、認めなかったことから始まる後悔には、涙を誘われるものがありました。

各章の頭や終わりに、未来から過去を振り返る形で、これから起きること、このとき思ってたことなどを、名を出さぬまま、誰かが語ってくれる場面があります。これがまた、不安を掻き立ててくれたり、興味を引いてくれたりしてくれるんですが、彼女の恋心について語ってくれる他人の言葉もまた印象的でした。

一度意識した気持ちや、一度得た温かさを忘れられないというのは、なるほど、愚か者の恋とはそういうものかと納得させられますね。いや、これを愚かと言っていいものかどうかは悩むところですが、外から見るとそう見えるところがあるのは事実だと思います。
素直なストーリィ展開なので、人間関係については、比較的早くから予想がつくんですが、こっち方面に来るとは思わなかったので、何とも残酷に思いました。

最後のほうが駆け足チックだったせいか、若干物足りなさを感じましたが、恋する気持ちと申し訳ないと思う気持ちから、黎良が動き始めたという終わり方は、非常に気になりますね。これは、ぜひとも続きをお願いしたいところです。
オススメ。

エパタイ・ユカラ ~愚者の恋~ - 高丘 しずる

エパタイ・ユカラ ~愚者の恋~
高丘 しずる

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