「こういうのはね、ここいらでは『引く手』って言われててね。通夜の晩に引っ張っていっちゃうんですよ」
「なにをですか?」
「生きている人を、あの世にです」
表情は思いがけないほど真剣だった。
「だから、あなたには今夜一晩ここにいて、お婆ちゃんの手を握って、それを止めていてほしいんですよ」
「あなたは行くべきよ。断らないでね」— 大学の奨学係のユウキさんから紹介されるアルバイトは、どれも少し変わったもの。だが、引き受けた人の心の重荷を解き放つものがあり……死者と手を繋ぎ一晩を過ごす「ヒカレル」病院の売店の仕分け「モドル」犬に餌を与えるだけで14万「アタエル」出される料理を食べるだけ「タベル」ガーデニングのお手伝い「メグル」の五編が収録されています。
これはとても良かった。どれもちょっと変わったバイトばかりなんですが、ユウキさんが紹介したなら、それはその人にとって意味を持つバイトになる、そんな展開が素敵です。
死んだ人がが家族や友人を引いてしまわないよう、無関係な人が手を握って一晩過ごすというバイトのお話しが描かれる一編目の「ヒカレル」では、気味悪くも妙に惹かれるものがあり、死者との会話が見えてくるところでは、ホッとしてぎょっとして、ドキドキでした。それでいて物語のラストの意外性と、ユウキさんの思いが見えるところに、嬉しくなる。この一編目で虜です。
他の短編も同じような感じではあるんですが、三編目だけはちょっと違いました。というか、二編読んだ後だけに、ユウキさんが「後悔しないでね」と言ったら、もう後悔することが約束されたようなもんだから……。お金持ち一家が旅行中、犬に餌を与える。ただそれだけのことなのに、家族構成と近所の噂が耳に入る度にドキドキ度が上がっていく、そして……後悔。うわっうわ。
でもね、そんな後味悪いお話しの後にやってきた「タベル」と「メグル」は素晴らしいものでした。トラウマを乗り越えていく人と友のお話し、そして年に一度のガーデニングは、どちらも泣かされました。特に「メグル」は最後の三行が……ぐすん。
少し不思議なこともあるけれど、そこに描かれる人の思いがとても素晴らしい物語でした。この著者はやばい。追いかける。
メグル
乾 ルカ
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