「殿下、お気を付けて。これから殿下が向かわれる王宮には、ヒルクィットどののような人間がいっぱいいると思います。けっして油断なさらぬよう」
「ヒルクィットが……いっぱい……?」
「まあ、あの方よりは小者だとは思いますが」
「でも、いっぱい……」
子供のような口調でそう呟いたトゥラルクが、シュムルの手を強く握りしめて叫ぶ。
「頼む、シュムル!一緒に来てくれ!俺一人じゃ耐えられない!」
山賊として育ったトゥラルクが、冷静沈着毒舌冷酷美男と思われてるヒルクィットによって第一王子候補に仕立て上げられて、仕方無しに王都を目指すシリーズの第二弾。今回は、巫女狩りを装った子供売買話と、囚われの身となった第一王子候補の子供を助けるお話、そして巫女シュムルの過去を描く「籠の鳥雲を慕う」の三編が収録されています。
ああ、もうニヤニヤ笑いが止まらない! 貴族の堅苦しい生活が嫌だからと、夜になってこっそり抜け出しては、トラブルを持ち込んでくるんだから、まったくもってトゥラルクは楽しいやつだ。
ひとりで解決できるわけがないから、ヒルクィットに事情を話すしかないんだけど、その時のおそるおそるな様子と、嫌味たらたら言われて、げんなりする様子がお約束ながら面白い。それでも繰り返すんだからいい神経してますね。
とはいえ、ヒルクィットもそんな彼を放置してるのは、もちろんガス抜きという意味も在るだろうけれど、彼を信頼してるという意味もあるんだろうなあ。巫女たるシュムルや神官のアスカルも、呆れながら手伝うのは、彼の真っ直ぐさに惹かれてるからだと思います。
それにしても、ヒルクィットはすごいなあ。どんなに不利な状況であっても、すべてを覆し、あまつさえトゥラルクに向けられる周囲の目線を「さすが王子」という状況に持っていく手腕は、惚れ惚れする。たぶん、嫌なのは、トゥラルクだけですよね。
なんだかんだいいながら、物事にとらわれない発想をするトゥラルクと、陰険ながら無茶な発想を実現させていくヒルクィットのコンビは、とても最強なんじゃないかと思う僕がいる。
神殿や巫女と絡むことで、何やら妙な運命が見え隠れしていますが、筆頭巫女とヒルクィットの思惑が何なのかいまいち見えないなあ。お互い利用しているようだけど、シュムルの話を見ていると、ヒルクィットが神殿に向ける感情は穏やかならざるものがあるようだし……。
いろいろ気になるばかりですが、ま、そんな思惑もさることながら、目立つなと言われたのにめいっぱい目立ってしまったトゥラルクが、王都でどんな難題にブチ当たるのかが楽しみですね。前途多難であることがわかりきっているので、ニヤニヤが止まらない。
天涯のパシュルーナ 2 (ウィングス文庫) (新書館ウィングス文庫)
前田 栄
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