「お迎えにあがりました、王子」
「はぁ?」
予想外にもほどがある台詞に目を丸くしたトゥラルクに、貴族の青年は妙にうさんくさい笑みで続ける。
「あなた様こそまぎれもなく、十六年前に偽巫女によって攫われた第一王子」
「……おまえ、正気か?」
十四の誕生日に巫女の神託によって仕事が定められる国パシュクルム王国。山賊として育ったトゥラルクは、そんな神託と無縁だったが、十六のとき、辣腕で知られるヒルクィット卿に囚われ、「王たる者」の運命あり、という神託を受けて……というお話。
これは面白かった!
十六年前に偽巫女によって攫われたという第一王子である、なんて具合にかつぎ上げられたトゥラルクからしたら、ヒルクィット卿は偽王子を仕立てあげて何かよからぬことをたくらんでいるようにしか思えないんだけど、第一王子の可能性という意味では、いろいろつじつまが合っているので、読者の立場からするともしかして……という思いもあるので、ワクワクしますね。
ま、かつぎ上げられたトゥラクルからしたら迷惑この上ないんだろうけど。さりげなく弱みを握られて、ヒルクィットの嫌み攻撃を受けながら、王子として鍛えられていくやりとりが面白い。
そんな具合にトゥラクルからは冷静沈着毒舌冷酷美男と思われてるヒルクィットですが、別の一面も持ってることが見えてくるのは、彼の婚約者とされるイーシャが登場してからですね。
偽りの婚約といいながら、どこか彼女には振り回されている様子が見えて、ひょっとしたらひょっとして……と思わなくもない。貴族らしからぬイーシャの奔放さはとても好ましいので、このあとも活躍してくれるとうれしいけど、さてさて。
まだまだ王都への旅は始まったばかりですし、パシュクルム王国との間に亀裂が走っている帝国の動きも芳しくないので、これから波乱が待ち受けていることは間違いないでしょう。いったい彼らはどんな苦労をすることになるのか、続きが楽しみですね。
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