「日が昇ったら、どっかの路上に行って、歌おうか。そしたらフルコーラス聴いてくれる?きみ感激して泣くんじゃないかな」
「泣かないよ」
意地を張った。
藤谷も向きになって、
「絶対に泣くよ!きみが泣くまで歌うのをやめない!」
ロックバンドをやりたいと思っていたのに、女だからと言う理由でバンドをクビになった朱音の元に一本の電話があった。かつてロック界を騒がせたあと音楽活動を停止した藤谷直季から、いっしょにバンドをやらないかと……マジシャンのごとき鍵盤さばきを見せる虚弱体質な坂本、有名バンドのサポートメンバーとして名をはせていた高岡尚、天才音楽家の藤谷と本能のドラマー朱音が繰り広げるハートビート・ノベル。
つい半年ぐらい前に、コバルト文庫版を読んだばかりですが、新装版になったので購入したついでにパラパラとめくっていたら……読み入ってしまいました。話の流れがわかっていても、藤谷が生み出す音が聞こえたら、ダメです。引き込まれてしまいます。
収録されているのは、コバルト文庫の「グラスハート」と「薔薇とダイナマイト」の二冊分+書下ろし短編「新しい朝」です。グラスハートの感想と、薔薇とダイナマイトの感想は、以前書いたのでそちらで。
書下ろし短編「新しい朝」は、高岡と藤谷が出会ったころの番外編ですね。「楽園の涯」「オクターヴ」の続きになるので、そちらを読んでいないと、いろいろ見えないところがあるかもしれません。
番外編の面白さは、普段見えない高岡尚の心境が見えるところですね。不満をごまかしながら周囲の人に合わせて、でもギターだけは心を表すかのように、ケンカをしていく。鬱屈してるように見えるけれど、音楽を信じてるからこそ、なんだろうなあ。
現状に生ぬるさを感じて、音で他の人の心を引きずりだしたいと思った彼が諦めようと思ったときに、藤谷の言葉を聞いてしまったら、そりゃ……ね。 泣き出しそうな笑顔が、目に浮かぶようです。
GLASS HEART 「グラスハート」 (バーズノベルス)
若木未生
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