「陛下は、こうもおっしゃった。その百人の何人でもいい。心から従ってくれる者がいれば、百人を率いる長になることは不可能ではない、と。だから、わたしも諦めぬ」
「お見事なご覚悟です」
「わからん奴だな」
「……は?」
「そなたのことだぞ。次はその口に、命と引き換えにしても守るといわせてみたいものよ」
北嶺という名の放置区へ左遷されたことを、楽な隠居生活ができると喜んでいた病弱な史官ヤエトの前に、皇女が太守としてやってきて……よく言えば素朴、悪く言えば単純で政治に疎い北嶺の民と、帝国の誇りを持ち込む皇女の間に挟まれて悩まされるヤエトが、北嶺と帝国の歴史的秘密に触れていくお話です。
これは最高に面白かった!
帝国の民でありながらその意識が希薄な北嶺の民と、気の強い皇女の間で、気苦労耐えないヤエトの様子には、ニヤつく頬を止めることができません。まあ、隠居生活を望んでいるくせに、不毛なやり取りを見かけるとついつい口を出してしまうから仕方ないですけど。
病弱な体にムチ打ちながら、北嶺の民に、あるいは皇女に、歯に衣を着せぬ言葉を投げかけて(たまに出てくる大人気なさがものすごく好きだ)、時に相手を怒らすこともあるんだけど、次第に皆から一目おかれる存在になっていくところがいいですね。
一方の皇女は、勝気で皇族らしい傲慢さもあったりするんだけど、でも理が通らないわけじゃなく、頭に血が上りながらも正論を受け入れる寛大さもあって。十四という年齢に違わぬ子供らしさを見せながらも、皇族としての責任や聡明さも見せてくれる姿には、成長を見守りたいと思うものがありました。ヤエトにだけ見せる弱さもまた素敵で、ちょっとからかう様子を見せるヤエトの気持ちはとてもわかるものがある。
この二人のやり取りもさることながら、北嶺にまつわるお話も興味深いものがあります。記録というものが一切ないため、「過去がない」とも言える北嶺ですが、民や同じ帝国の他民族の噂話、そして北嶺にしか存在しない鳥の話、さらには……と、いつの間にか、皇女の副官を務めることになったヤエトが、関わる人たちから少しずつ仕入れた過去の話と自身の秘密から、見えてくる「歴史」には、ゾクっと興奮するものがあります。でも当事者だと逆の意味でゾクっとするよなあ。
突然の皇妹の訪問から、考えすぎというにはあまりにも符丁が合いすぎている出来事がありましたが、さりとて何が起ころうとしているのかまるで読めない展開に、どうなるのかと引き込まれっぱなしでした。
いやあ、面白かった!とても魅力的な物語ですね。
最後にまたしてもやってくれた皇女にニヤリとさせられましたが、破滅の予言とかいろいろ不安を感じさせる謎は、いまだ残ったままです。下巻では、どんな展開が待ち受けているのか楽しみ。
翼の帰る処 上 (1) (幻狼FANTASIA NOVELS S 1-1)
妹尾 ゆふ子
そうそう、著者である妹尾ゆふ子さんがブログで感想用エントリーを立てています。
買った、読んだ、おもしろかった(おもしろくなかった)といった内容でも、もちろん問題ありません。あまり難しくお考えにならず、お気軽にお声をお聞かせ願えれば、と思います。
読了した人は、コメントやトラックバックを寄せるといいかも。
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