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[有川浩] 阪急電車

その日、征志が宝塚駅から隣り合わせて座った女性は、征志の側から一方的に見覚えのある人だった。征志がよく通っている図書館で、本の争奪戦に敗れたことのある相手だ。相手は勝利したことすら知らないだろうけれど、それ以降、何かと彼女の姿が視界に入るようになっていたのだ。だがそれは図書館の中だけだと思っていたのに、まさか電車まで一緒だったとは……。意識しないよう借りてきた本を広げた征志だが、隣の女性は、急に妙な挙動を見せて……

運命の女性に出会った男性や、寝取られた男への討ち入りを果たした女性、別れを決意する女性、恋の始まりを予感させる出会いなど、「宝塚駅」から「西宮北口駅」、折り返して「西宮北口駅」から「宝塚駅」へと人を運ぶ、阪急電車の今津線を舞台にした連作短編集です。

いやあ、面白かったなあ。片道八駅、往復で十六駅あるから、物語りも十六編ってことで、一編一編は短いんですが、恋の甘さとか苦さとかを存分に味あわせてくれます。各短編で主人公は異なるんですが、同じ路線を使ってるってことで、前の話に登場した人がさりげなく出てきたり、時に絡んだりして、にやりとさせられるものもあります。

恋愛ものの場合、個人的には苦い話のほうが、印象に残るんですが、中でも二編目の「宝塚南口駅」での翔子の話はすごかった。寝取られた相手の結婚式に出席するという、自ら傷つくことがわかっていながら、それでもそうするしかなかった「呪い」が、心に突き刺さります。

そんな翔子を電車で見かけ、察するものがあった見知らぬ他人のおばあちゃん時江が、個人的に最高のキャラでした。やったことを責めるのではなく、ただ、呪いを溜め込まないよう諭すところが素敵です。孫娘にすら厳しい姿は、家族には敬遠されるかもしれないけれど、格好いいと思いました。
時江のアドバイスによって、「小林駅」で途中下車した翔子が、心を穏やかにしていく町の情景もよかったですね。ああ、あの町に行ってみたいと素直に思う。

とまあ、片道の話をチラッと振り返っただけでも、面白さ満載なんですが、やっぱり有川さんの恋愛といったら、ベタ甘なお話ですよね(と個人的に思ってる)。それを存分に味わえるのが、折り返してからの「仁川駅」と最後の「宝塚南口駅」から「宝塚駅」。

仁川駅」は、大学生の圭一と美帆のお話。読んでてくすぐったくなる。普段はおとなしいのに、好きなことに夢中になったときの美帆は、「図書館戦争」の郁を思わせる言動で、笑いが止まらない。彼女の無造作な殺し文句に、照れる圭一の様子が最高でした。

宝塚南口駅」から「宝塚駅」では、もうちょっと年上の大人の男女。図書館で相手をよく見かけていた征志とユキのお話。お互いがロックオンをしていたとは知らなかっただけに、知ってからは急速に近づいたんだけど、でも、最後の一歩が踏み出せないという、微妙な距離感というか、もどかしさがすっごいいい。できればもっと長いお話で読みたかったほどです。
最後はもちろん!
繋いだ手の温かさが伝わってくるお話でした。

いやあ、面白かった。どのお話も、どの登場人物も魅力たっぷありで、また会いたいなと思わせてくれるものがありました。やっぱ有川作品、大好きだと再確認。

阪急電車 - 有川 浩

阪急電車
有川 浩

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