「確かにお役人は金に汚いし、お金持ちは身勝手や。そやけど、商いで儲けたお金を学問所に注ぎ込んで、貧しいひとに学問の機会を与えようて考える金持ちもおる。筋の通らんことがどんだけ多くても、お金持ちにもお役人にも、本当に町の者のことを考えてくれるひとはいるはずやわ」
お香、お涼、お美和の三姉妹で開いている寺子屋の三春屋は、貧しい家の子供のために、夜に一文稽古を行っている。子供だけでなく大人も、そして抱える事情も異なる分、苦労も多いが、周りの人たちの協力とともに乗り切ってきた。ところがある日のこと、大工の倅でありながら学者を夢見て一文稽古に通っていた達次が、姿を見せなくなり……というお話。
なんか、こう、きゅんとなる思いが描かれるなあ。
一文稽古とは、いわば夜学みたいなもので、昼間は仕事を手伝っている子供や、貧しい家の子供などに、お金の工面がついたときだけ、一文を手にもってくれば読み書き算盤を教えるというもの。大阪で始まった慣わしみたいですが、町の人の協力があるからこそという仕組みがいいですね。わがままな子供を相手にするのは大変だったりするけれど、子供たち同士の交流を経て、成長する姿を見られるというのは、教える人たちにとって大きな喜びなんだろうなと思える描写が素敵です。
子供たちに教えるのはお香で、大人たちに対して学ぶ機会を与えるのは、次女のお涼。女だてらに漢詩を通読し「懐徳堂」に通う学問好きで、逆に女らしくないというか、学ぶ姿勢が厳しいけれど、なんだかんだで優しい人なのよね。達次のことを好きで、彼と会うために通っていたお若に対していい顔してなかったのに、達次の様子がおかしくなったのは、学者さんに関係があるから調べてくれといわれたら、しぶしぶながら動くんですから。
調べていくうちに、時代劇で言う「越後屋」みたいな怪しさを見せる肥前屋が登場して、関係者が不審な死に方をするからそりゃ怪しい限りなんですが、事件をこっそり調べているのが、三春屋の裏長屋に越してきた浪人・佐竹佐十郎なんですが、彼自身が何者なのかよくわからず、でもお美和が彼のことを気になっていく展開にニヤニヤでした。片思いのいじらしさと拗ね方とかとても可愛く、でも彼は別の人を……みたいなアレは大変いいですな。まあ、性格には佐十郎の思いは……なんですけどね。ところで、この恋が発覚したら、お姉さんたちは許してくれるのかしら(ってぐらい三姉妹は仲がよろしい)。
達次とお若のすれ違いや、お美和の淡い恋、佐十郎の友情などを見せながら、大阪という町を描いていくお話は、派手さはないけど良かったです。
それにしても、大塩平八郎が見習い与力として出てきて、堅物さを見せるあたりニヤりですな。
Home > 文学・歴史・その他 > てのひら一文 ― 寺子屋若草物語 / 築山桂
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