「一緒に野球をしていただきたいの」
気が強くても滅多にわがままを言わない「お嬢」こと晶子が、突然そんな事を言い出だしたのは、とあるパーティで出会ったいけすかない男を見返すためのようだ。相手が自慢している野球で仇をとると言うのは簡単だが、野球のことなど何も知らないし、良家の子女を集めた女学校が、そんなはしたない事を許してくれるかわからない。それでもお嬢の言葉に、賛同した女学生達が集まってきたが、はたして、野球で勝てるのだろうか……?
大正十四年という時代だけあって、男尊女卑の世間。女学校に通ってるぐらいだから、野球をやるには、まず学校やお父様に野球することを許してもらうところから始めなくてはならなくて、さらに野球を知らない人がほとんどで、人数が揃うかどうかもわからなくてと、問題が盛りだくさんなので、どうなるのかという始まりです。
ただ、悲壮感というのは全然ないです。強気なお嬢、まっすぐな小梅、「博士」こと乃枝、宝塚ばりの巴などなど、個性的な良家のお嬢様たちが、それぞれ自分の特技を生かして、策を練り、根回しをし、もちろん努力もして、問題を乗り越えていくところが、とても良いです。
時に痛快で、時にじわりとさせられるんですが、特にいいなと思えるのは、野球をやろうとするために集まった人たちの一体感が伝わってくるところです。
「なんか、野球ってものがあってよかったなって思います」
「よかった?」
「ええ。野球があったから巴さんともより仲良くなれたし、小梅さんたちとも知り合ったし。野球に感謝しています」
この野球のおかげで、いろいろな人に出会えた、いろいろな人とと深く付き合うことができて、良かったという感じが、随所で伝わってくるんですよね。これがホントいいです。思わず自分も野球がやりたくなるぐらい。
乙女たちの友情ものだけじゃなくて、恋愛要素もしっかりありました。個人的に印象に残っているのは、小梅と三郎のデートですね。親が決めた婚約者同士とはいえ、憎からず思っている人と一緒に出かけることができて、嬉しいのに恥ずかしい様子が、たまりません。手を繋ぐのが恥ずかしいからって、ハンカチの両端を握り合うところとか、クーってなります。
言葉の足りなさから、すれ違う事もありましたが、あの告白の場面は素敵でしたね。
素人同然のお嬢様たちが普通にやったって、男子相手に勝てるわけが無いよなあ、と思いながら読んでいたんですが、「博士」と呼ばれるほど博識な乃枝が、野球を理論的に把握していって、それぞれのポジションにあわせた運動を考え出し、猛特訓をする様を見ていると、ひょっとしたらと思わせてくれるから面白い。
金属バットとか、ピッチングマシーンもどきとか出してくるところは、ちょいとズルイなあとにやにやしちゃいましたが、人体強化ギブスを持ち出してきたときには、思わず笑ってしまいました。やるな、乃枝。
着飾ると美しき令嬢たちが、仲間とともに奮闘して、いけすかない男がいるチームに試合を申し込んで。さて、結果はどうなったかといったら、それは読んでのお楽しみ。
ああ、これはいいなあ。読み終わるのがほんともったいないと思わせてくれる作品でした。最近こういう当たりが多くて、ホント幸せ。
野球ネタでも、野球ネタじゃなくてもいいから、このメンバーの物語は、また読みたいなと思いました。
大いにオススメ。
大正野球娘。 (TOKUMA NOVELS Edge)
神楽坂 淳
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