「西荻……」
彼女はゆっくりと目を伏せた。
「……あたし、もう、前みたいには、勝てないかもしれない」
勝てない ―。磯山さんが?
全中二位であり剣道一筋で生きてきた勝負にこだわる磯山香織と、勝ち負けよりも、自分にあった勝負ができればいいという「お気楽不動心」西荻早苗が、同じ高校に進学して、剣道部に入部したが……相反するふたりが、剣道を通じて、ぶつかり合い、支え合い、涙する物語です。
これは本当に面白かった!なんといってもふたりの関係がいいですよね。
ふたりが交互に語り手となって物語が進んで行くんですが、勝負に拘るが故に、部内でも孤立して行くんだけど、早苗に対してムキになりつつも、彼女の強さを知りたくて迷う香織の弱さと、香織の激しさに怯えながら、自分とは異なる天に価値をおく彼女を放っておけず、彼女の強さを知っていく早苗の関係に引き込まれます。
何といっても印象的なのは、先輩を先輩と思わず、部に溶け込むことの無かった香織が、トラブルから部を離れた時のことです。試合の応援に行き、仲間が活躍する度に手を叩いた彼女は、できれば皆の側で応援させてあげたかった。
そんな香織を引き戻すために、安い挑発をして、きっかけを作り上げる早苗も素敵でしたよ。
ふたりとも、出会った時から比べると、大きな変化がありましたが、ぶつかり合って、お互い相手の強さを知ったからこそ結ばれた信頼関係がとても良かった。演出過剰と言われた彼女のシーンは、じわっとやられる。
ほんと素晴らしい青春物語でした!
武士道シックスティーン (文春文庫)
誉田 哲也
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