腐野淳悟は、わたしの養父だ。震災で家族を亡くした小学四年生のわたしを引き取って育て始めたのは、十五年も前のこと。そして、今ではわたしは二十四歳になって、明日、結婚しようとしている。あのとき、どうして腐野淳悟は、わざわざ面倒な子供を引き取ろうとしたのかはわからない。淳悟という男の選択も、行動も。ただ、確信できているのは、雨のような匂いのするこの養父こそが、まぎれもなく、私の男だということだけだった……
震災孤児となった花と、彼女を引き取って父となった淳悟の情愛を描いたお話です。
すごいものを読んでしまったなあ。
花が結婚する2008年から物語が始まるんですが、父であるという淳悟との何ともいえない関係に、不安定な興味を惹かれるて、軽い気持ちで読んでいたら、2005年、2000年と、時を遡って物語が語られるにつれて、だんだんと息苦しくなってくるものがありました。おとうさんという存在が、花にとってどれだけ大きなものかを感じていく展開に、淫靡なものを感じさせられます。
一番印象に残っているのは、第四章の「2000年1月 花と、あたらしいカメラ」でしょうか。ふたりが故郷を離れるきっかけとなる事件が描かれるんですが、仲の良い親子でありながら、許されない交わりを繰り返す姿には、寂しさや不安ばかりが見えるんですが、極寒の流氷で泣き叫ぶところには、凍える寒さよりも、暗くとも深い思いを感じました。あそこでカメラを構えてしまった気持ちが、なんとなく判る気がする。
語り手も変わるため、ふたりの心情のみならず、周りから見たふたりの様子も見えてくるんですが、外からでは歪みにしか見えず、過去に遡るほど、閉鎖的な空間が見えてきて、特に淳悟の恋人たる小町視点から見た二人の描写には、思わず嫌悪を覚えるほどのものがありました。それでいて、一方的でない関係も見えて、何ともいえない気持ちにさせられるんですよね。
これほどまでにドロドロとしながら、それでいて乾いたような印象も受ける描写に、やられました。
最後の二人の出会いが描かれる章で、深い愛情が見えて、それがまた切なさを思わせて……
いやあ、面白かった。読み終わった後、何とも言えないもやもやしたものが心に残るのは、登場人物の思いに、あてられたからかしら。ここまで感情を揺さぶられるんだから、やっぱすごいよ。
私の男
桜庭 一樹
サインもらっちゃいました!
うれしー!!
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