「SAより、SSのほうが恐ろしい。だが俺には、さらにあんたたちSDのほうが恐ろしく見えるね」
ベトケは息をついた。
「おまえさんの理性が、いつかおまえさんに復讐することがないようにと願うよ」
1953年ドイツ。保安情報部(SD)員のアルベルトは、ヒトラー政権に反発する国内のカトリック教会の摘発を命じられた。だが、正教条約によりカトリック教会に表立って干渉できない。ならばと、彼が目を付けたのは、修道士になって事故死した兄と、兄と修道士になり静かに生活していた幼なじみのマティアスで……ナチスがドイツを覆う過程と立ち向かおうとする人々を描く裏切りのドラマ全二巻です。
これは……重い。ドイツ共産党の生き残りを見つけ出し、カトリック教会を失墜させる為に、友として人に近づき、信用を勝ち取って、裏切っていく。己を正義と思っている人たちの残酷さが胸に痛い。
次々と教会を失墜させていく手腕は空恐ろしいものがありましたが、このことは大衆にも伝わっているだろうに、それにもかかわらず、人々がヒトラーを支持し続けたと言うことは、それまで以下にドイツの人たちが苦しんできたかという下地があったからでしょうか。戦争に負けて多大な借金を背負い、大恐慌に襲われて、絶望に追われたからこそ、選民思想や誇りを思わせる行動を取るヒトラーを支えたのかな。
でも、崩壊の兆しは少しずつ見えていて、特に宗教の弾圧は大きかったと思います。言うなれば、人々が不安になったときの心の支えを取り除こうというんだから、そりゃ人気があっても疑問に思う人が出てくるよなあ。なにせ、政権側にいるアルベルトの妻・イルゼでさえ疑問に思ってしまうのですから。
ヴァチカンが唯一ドイツ語で行った回勅「燃えるがごとき憂慮をもって」がくすぶり続け、おそらくはこのことが、イルゼの心に変調を及ぼしたことは想像に難くない。もし、あのとき子供が生まれていたら……アルベルトはまるで違う道を歩んだように思います。
一方、アルベルトに裏切られ、苦悩を抱えてもがくことになったマティアスは、政権に反発しながら様々な組織と関わり、時に命がけで動きながら、政府を批判しながらも動く者が少ない現状にもどかしさを感じて、これがまたきつい。目の前で死んでいく人たちがいるというのに、求められるのは確証ばかりなんですから。まず動けよと言いたくなることが何度あったことか。
屍の上に築かれて功を成したアルベルトへの復讐心は募るばかりで、手に届きそうだったときには思わず……という思いに、神の救いの無さを感じましたが、そのころにはアルベルト側に、いろんなフラグが立ってて、不安が止まらないなんてもんじゃなかった。
「恩寵の死」という名の大量虐殺が始まる中、これまでアルベルトが行使してきた力が、自分の身に降りかかることになりましたが、ここから物語はどう進んでいくのか。まるで予想できないけれど、まだ絶望は始まったばかりだろうから、心して続刊に取りかかろうと思います。
神の棘 1 (ハヤカワ・ミステリワールド)
須賀 しのぶ
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