「もちろん権威も大事だけどね。いや皆さん、話は簡単なんですよ。つまり」
キャスランは長い銀髪をかきあげて、晴れやかに微笑んだ。
「未知の怪物だろうが黄金の山だろうが、はたまたミミズのうごめくドブ泥だろうが、それがなんであれ領主がほしいと言うなら、嫌だと答えてやるのが我々の流儀ってもんじゃないですか」
植民地を求め宇宙へ向かい、しかし宇宙船にトラブルが起きて、たどり着いた惑星メニー・メニー・シープの三百年後が舞台。臨時総督であるユレイン三世が発電炉不調を理由に、配電制という弾圧を始めて、二百万人の民がくすぶり始めて……という状況から始まる物語。
これは面白かった!
無理な弾圧をされれば当然民は反発するわけだけど、配電制のみならず、液体窒素など、重要な物資まであらかた押さえられているので、動くに動けない。そんな中、反骨精神たくましい、セナーセ市の「海の一統」の姿は、惚れ惚れさせられる。虎の威を借る狐のような代官たちを退けていくところとか、とても痛快ですよね。
登場するのは人だけではなく、人と同じ外見を持ちながら電力を体内にためる「海の一統」、甲羅に覆われた愚直というか素朴な兵士・石工、褐色の縞模様を持つ荒々しく美しい怪物、芸術家であり別の顔も持つアンドロイドなど、言葉が通じる者もあれば、独自の意思疎通をするものもいるんですが、そういったものたちと、だんだんと近しい関係になっていく展開が、またいいんだ。そこいら中で、カップリングのフラグが立ってるのも、個人的に嬉しかったりする。
圧政を敷き、制限をさらにきつくして、特権を当たり前だと思う政治家たちは何もせず。そんな状況で政治的に戦おうとするもの、戦うために着々と準備をする者など、複数の視点から描かれるお話は、どちらもワクワクさせられて、時にニヤピンするところがあると、ニヤリとしちゃって、ほんと読むのが楽しくてしょうがなかった。
今のところ、領主の話はそれほど見えてないところがあるんですが、圧制と本人の素顔らしきものとが微妙に一致しないので、こちらも一筋縄ではいかなそうな雰囲気だなあ。
領主側と直接立ち向かうのは、医師のカドムか、政治家のエランカあたりになるのかな。特にエランカか。
理想を胸に政治家となりながら、ただ上の人たちに利用されてることに気づいたエランカが、選民たちのために少しずつ成長していく姿がとても素晴らしかったので、彼女が政治劇が始めてくれたら、嬉しいですね。
一方、海の一統のアリクラの冒険物語も気になるところ。いきなり悲劇が待ち構えてしましたけど、ここからどうなっていくのかとても楽しみです。お願いだから、カヨだけはこれ以上……と思う僕がいる。
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
小川 一水
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