「それはおくとして、私っていう構造を生かして残した理由は何?」
「さあ、そこが取引よ」
相手の声はいっそう楽しげになった。
「私は人類をたいらげたい」
「そ……そんなこと手伝えるわけが!」
「ま、聞きなさいよ。説明するから……」
SFなお話の短編集ですね。以下の五編が収録されてます。
- 二年間、狭い基地で過ごした火星越年隊が、人あらざるモノに侵食されて不老不死になり……「フリーランチの時代」
- 事故で脳死判定直前になっていた私は、私を殺して動く体を手に入れて……「Live me Me」
- 人間嫌いな宇宙船乗りが汎用AIと交流していくうちに奇妙な思いにとらわれて……「Showlife in Starship」
- 延命措置を受け付けないお婆さんを、健康維持局の男が追ううちに……「千歳の坂も」
- アルワラ族とホンアプレ族の戦いは、ETが絡んでいた……『時砂の王』のスピンオフ「アルワラの潮の音」
うーん。面白いんだけど、なんていうか、どの短編も、ここからどうなっていくんだろう?とページをめくったら終わってしまうような、そんな物足りなさがありました。
表題作「フリーランチの時代」なんて、火星であっさりとファーストコンタクトをして、その直後に身体に侵食されちゃうんだけど、意外とさっくり受け入れちゃうところが、何とも不思議。といいつつ、もし自分が遭遇したら、ひょっとしたら同じようなことをしちゃうかもしれないなあと思えたりするので、なんとも言えない微妙な気持ちになるのが、こう、もやもやするのかも。
あ、でも、他人を引きずりこむかはちょっとわかんないかもしれない。
「Live me Me」では、事故の影響で脳しか動いておらず、それすらも初めはただ動いてるだけだったのに、次第に意思疎通ができるようになっていくところとかすっごい良くて、オンラインゲームのようなバーチャルな世界でなら動けるようになったら、次は……と思うのは当然だと思います。そのために、生身の自分を殺すしかなくなったとしても、躊躇は……やっぱりしないかな。どうなんだろう。
最後の行動は……希望に向かって走ると思っていいのかな。うん
家事用のAIと交流していくうちに、だんだんとAIにも感情らしきものがあるのでは?と思い始めてくる「Showlife in Starship」は一番キャラクタ立ってたと思います。人と話をしなくても生活できるという宇宙船乗りは、そりゃ人間嫌いからしたら、これ以上ない職業だよなあ。
ともあれ、AIに感情があるかもと思うあたりは、微妙にホラーテイストのような、でもなんか感じるものがあるような気がしましたが、最後にAIに対してツンする男の船乗りの姿が、楽しかった。これはとても続きが読みたくなるお話。
「千歳の坂も」は、延命措置によりほぼ不老不死を手に入れた人類が、その措置を受け入れる人と、受け入れない人を描いたお話……というか、受け入れないおばあさんがいるのは、なぜだろうというところから、健康維持局の男が逃げるおばあさんを追っていくんですが、なるほどなあ。死ななくなると、むしろ無気力になって、死を望む人が増えるってのはありそうですね。何とも皮肉を感じますが、それはともかく、このお婆さんの生き方がとても格好良かった。 死を恐れず、それでいて死に敬意を払い。追いかける男が、だんだんとお婆さんに興味を持ってしまう気持ちが良くわかる。このお話が一番好きでした。
ラストは、『時砂の王』のスピンオフ「アルワラの潮の音」。オーとかが出てきたりするんですが、それよりも、「細い・葉っぱのよう」という意味を持つク・プッサという船匠の成長物語的なところが、とても良かった。友人にして同年代の一番の戦士に、屈折した憧れを持ち、その彼女に惚れて。
そんな中、ETが力を貸したホンアプレとの戦いが始まり、まさかの大敗を喫す寸前で、オーたちが現れてくれるからうれしくなってしまう。ただ、ク・プッサが気づいてしまった現実には、つらいものがありましたが。
というわけで、こう、ちょっと物足りないというか、望んでる方向とちょっと違う方面の話だったので、面白かったけど、ノリ切れなかった短編集でした。SF畑の人が読むと、また違った印象を持つのかもしれませんね。そっちの見方もできるようになるといいなあ。
フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-8)
小川 一水
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