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[野尻抱介] 沈黙のフライバイ

地球外に文明が存在したら、きっと交信してくるはず。ならば、高感度のアンテナを宇宙に向けてみよう。彼らのメッセージが受信できるかもしれない ― だが、地球外文明探査(SETI)の成果は皆無だった。恒星間飛行は、現代においては夢物語なのか。そう思っていた矢先に、アンドロメダ方面から有意信号が確認された。
それは、赤色矮星からの探査機が太陽系に向かっていることを示すもので……

という表題作「沈黙のフライバイ」を含む五編からなる短編集です。いやあ、もうホント素晴らしいですね。

沈黙のフライバイ
現実の恒星間飛行アイデアを基にしたとのことですが、地球外文明を追いかけてきた人たちの熱中する様は、まるで子供のようですが、そのワクワク感がとても伝わってきますね。ほんのわずかな信号から、相手の惑星の状況を推測し、絵を描いていく様には思わず引き込まれてしまいます。ほんのわずかな時間で通過する探査機に「見せる」光景は、たぶん、関わった人の目には焼きついただろうなあ。
人類最高のテクノロジーをしてようやく知りえたものがあり、それでもわからないものがある。ましてや、宇宙の広を考えたら……
ラストの一言には、思わずゾクゾクさせられました。素晴らしい。

轍の先にあるもの
2001年にエロスという小惑星に着陸した探査機が、最後に撮影した写真に残る地表の轍はいったい何か、というのを追い続けた小説家が、ついにエロスへ……というお話。ゾク たった一枚の写真から、推測していく話には、わからないことがあっても、興味深く読んでしまいます。小説家というのは、野尻さん本人を意味してるのかな?宇宙へ行くというワクワクする気持ちは、きっと代弁してるんじゃないかなあ。追い続けたものに触れるときのシーンには、目頭が熱くなりました。ああいいなあ。ぜひ野尻さんには行ってほしいなあ。

片道切符
反対派のテロにもめげず、二組の宇宙飛行士の夫婦が火星へ行くというお話。ぶっちゃけ、お題目なんて関係なしに、ただ、宇宙へ行きたいから、宇宙飛行士になるんじゃないかなと思ったり。命の危険よりも、到達したいところがある。その気持ちが伝わってきます。そんな危険な道でも、お互いを支えあえる夫婦っていいですね。
タイトルを考えれば、どういう選択をするのかは見えてきますが、だからといって、悲しいお話ではなく、むしろ希望に満ちている気がしました。
宇宙空間での夫婦生活ってのも大変なんだなと思った次第ですが、実際には重要なことですよね。

ゆりかごから墓場まで
全身を覆い、排泄や汗を完全にリサイクルする閉鎖生態系の C2Gスーツをめぐるお話。電力さえあれば、一生生きていけるというスーツではあるものの、好きな人と肌を合わせることすらできないというのは、ちょっと寂しいものがありますね。
そこはいいとして、火星での話は、終わったと思った後だけに「あなた最高よ!」には激しく同意してましたが、最後の最後でまたひとつ、驚きがあったりして、後日談とか読みたくなるような話でしたね。

大風呂敷と蜘蛛の糸
弾道飛行実験のアイデア・コンテストに、「凧によるアシストで宇宙に達する方法」を提出したら、それが現実味を帯びてきて……というお話。あーこれ大好き。突拍子もないアイデアのように思えたけど、ひとつひとつ検討していくと、案外ありえそうだから面白いよなあ。「できっこない」という諦めの言葉が禁句だというのには、心打たれるものがありました。
トラブルが発生し、命の危険を感じたときですら、アイデアを思いつく様には、研究者ってやつはとニヤリです。最後の最後までホントと素敵でした。

すぐそこにあるのに、なかなか手が届かない宇宙を目指す人たちの話に、何度も鳥肌が立ちましたね。あー、堪能した。文句なしでオススメ!

沈黙のフライバイ  - 野尻 抱介

沈黙のフライバイ
野尻 抱介

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