「しかし、偏見というのは根強いですよ」
ネイリンは悪戯っぽく片目を瞑った。
「だったら、あなたがフーバニアを描いて、それを本にしてカリカテリアの人びとに見てもらえばいいんじゃないですか?」
「役に立たない男」と言われたグリンリー家の息子・エラードが、七百年間、ろくに国交のなかったフーバニアの調査を命じられて、恐る恐る足を踏み入れたら……絵を描くことが好きな男とフーバニアの人たちとの交流を描くお話です。
これは楽しかった!
人喰いがいる、邪悪な魔法使いがいる、魔境だなどなど、隣国だけど何ら情報がないため、悪い噂ばかりはこびるフーバニアですが、言ってみたらこれが素敵な土地なんだ。
いや、毒のある植物やら、底なし沼など、危険なところもたくさんあるんだけど、それ以上に魅力があるんです。幻想的な植物もさることながら、こっちと似ているようでちょっと違う動物(巨大な蜂とか、二本脚で歩く馬とか)たちの愛くるしさと言ったらもう!
特にエラードが、フーバニアに足を踏み入れて、初めて出会ったクロアシミミギツネの「ちび」は、たまらない可愛さでした。読んでる間、「ちび」が出てくると、自然と顔がほころぶんでしまいましたね。あー、ほんとちびに会いたい、フーバニアに行きたい!そう思ったお話でした。
はじめの二章でフーバニアの魅力がこれでもかと見せられたがために、エラードが故郷のカリカテリアに戻ってからのお話は、やるせないものがりました。いつだって卑しい人は、善良な人の心を踏みにじろうとするんだよなあ。フーバニアにカリカテリアの手が伸び始めたことを知ったときのエラードの後悔は、見ていて辛いものがありました。
フーバニアに行くまでのエラードだったら、そのままうじうじ終わってたと思いますが、あの土地を愛し、またあの土地からやってきた人たちが動くと知ったら、手を貸さないわけに行かないでしょう!学者肌のネイリン、美少女のニアなどなど、愛すべき人たちの活躍も楽しいものがありました。何気にカリカテリアの王様のシグベルトもいい感じになっててにやり。
いや、たぶん、かの王の恋は実らない……かどうかよくわからないなあ。実は天然でたらしなんじゃないかと思うエラードを、ニアがどう思っているのかすっごい気になり中。
小国で軍も持っていないフーバニアが、大国カリカテリアの侵攻をなぜ受けないかというあたりが見えてくる最後の展開は、なかなかファンタジーすぎる気もしましたが(個人的には「切り裂き喉の木」の効能とか中心でもいいと思った)、ともあれ、欲を見せた人たちが倒れ、フーバニアの土地が護られたことはとてもよかったです。
いやあ、面白かった。最後に、シグベルトが粋な計らいを見せてくれるから嬉しくなっちゃいましたね!彼ならフーバニアという土地に行ったら、いろいろな絵を描いてくれることでしょう。そんな景色をまた見てみたいので、ぜひとも続きをお願いしたいです。オススメ!
フーバニア国異聞―水の国の賢者と鉄の国の探索者 (C・NOVELSファンタジア)
縞田 理理
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