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朱唇 / 井上祐美子

「そなたは、誇り高いのだな」
「妓女風情に、誇りなどはございません」
それもきっぱりと言い切って、女はにこりと笑った。
「ただ、女はだれでも、殿方にとって一番の女でいたいだけですわ。たとえ賤しい妓女でも」

茶道楽が過ぎて落ちぶれた老人が語る金陵一とうたわれた美女の物語、過水の相(凶相)を浮かべる女の行く末、きっぷのいい姉御肌の女……といった妓女の恋と矜持を描いた短編集です。

これは素晴らしい。
美しさからもてはやされても、身を売る以上、堪えきれないことは多々あり、時に悲しい結末を迎えることもあるけれど、矜持を持つものの誇り高さや強かさには、惚れ惚れするものがあります。

なんといっても魅力的だったのは「牙娘」でした。姉御肌で気が強く、無礼な輩にはその名の通り牙を向けることもあるけれど、曲がったことはしない。しかも、無理を通した後には……というあたり、惚れちゃいます。持ちつ持たれつなのに……。

一方、妓女の強かさを知るのは「玉面」。町の人のために、業突な男をたぶらかす様は、全くもって痛快でした。騙された人からしたら悪女かもしれませんが、人を救ったと喜ぶのではなく、たぶらかしてなんぼと言わんばかりの様子に、妓女の矜持を感じるものがあります。

全部で七編のお話が収録されており、どこかの話で名前だけ出てきた人が、別のお話で登場するとかあって、ニヤニヤさせられたりしますが、この七編の中で、僕が一番好きなのは「歩歩金蓮」。客を選り好み出来るほどの艶名をうたわれる美妓・李師師の元に、身分を隠した皇帝陛下がやってくるお話なんですが、ふたりのやり取りもさることながら、彼女を狙う男たちのやきもきっぷりがたまらないです。惚れたほうが弱いとはまさにこのこと。「いやなら捨ててくださっても」と言われて慌ててご機嫌をとる人々にニヤニヤしまくった。

そんな感じで、男を手玉に取るような李師師が、落ちぶれていく天子さまを前にしたときの言葉はもう……愛しさが溢れてくるような物語に、奮えが止まりませんでした。もっとこのお話は読みたかったと思うばかり。いや、このお話だけじゃないですけど。

ああもう、ほんと井上祐美子さんのお話って好きだなあと、実感しました。

朱唇 (中公文庫) - 井上 祐美子

朱唇 (中公文庫)
井上 祐美子

中央公論新社(文庫)
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