怪我をして、犬に追われていた霊狐の野火を助けてくれたのは、小夜という少女と、森陰屋敷に閉じ込められていた少年の小春丸だった。村の人たちから距離をおかざるを得ない二人は、それから頻繁に会っていたが、森陰屋敷の人々にそのことを気づかれ、会う事がかなわなくなった。
それから数年が過ぎ、お互いの事が淡い思い出になり始めた頃、隣り合う二つの国の争いに巻き込まれて……
この世と神の世の「あわい」に棲む霊狐の野火と、人の思いを感じ取れる「聞き耳」を持つ小夜、閉じ込められた生活をさせられていた小春丸が、領主たちの争いごとに巻き込まれていく物語です。
ああ、もう何て素敵な物語なんでしょう。始めの数ページを読んだだけで、雰囲気に引き込まれていく自分がわかりました。
霊狐として、使い魔として生きてきた野火が、人の温かさに触れてからの気持ちがよくわかりますね。命を助けてくれた小夜を守りたいと思う気持ちが、ひしひしと伝わってきます。
報われないと知りながら、命を縮める行為と知りながら、止められない思いに切なくなりました。
ただ、普通に生きていたいだけなのに、不思議な力を持って生まれてきてしまった小夜の心情もまた切ないんですが、やり場のない思いを抱えながらも、立ち向かう姿がとても良かったです。
恋とか愛などという言葉を使うのは何となく憚れるんですが、そういった感情をすべて包み込んだ気持ちが伝わってきますね。
この辺りの心情を感じてしまうと、二つの国の争いに巻き込まれる人たちが不憫でなりません。人を信じることが出来なくなるとは、憎み恨みとは、何と醜いものなのかと思いました。
美しくも悲しい結末のようではありましたが、本人たちが想い合えるなら、それは幸せと言っていいですよね。何とはなしに懐かしさを感じさせられる雰囲気と、あまりにも切なく、あまりにも優しい物語に、深い感動を受けました。大満足な一品です。
この著者は文句なしで追っかけリスト入り決定。
狐笛のかなた
上橋菜穂子
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