昭和三十三年。三流の小説家として生計を立てていた甲野八十助は、何か話のネタになるものはないかと、師走の風が吹く人ごみを歩いていた。そのとき、その男に出会ってしまった。かつての友人であり、恋敵であり、今は亡くなったはずの鼠谷仙四郎に。まさか幽霊かと思ってガタガタしていたら、俺は一度死んで、再び俗世に顕現したのだと、鼠谷は語り……
生きながら死んだ存在の人たちが集まる火葬国が舞台となる「火葬国風景」、誰もが善良な人となり、国家のために勤勉に働くようになるという音楽を強制で聴かせるミルキ国の「十八時の音楽浴」、二つの物語を結末に導いていく「漆黒のアネット」のお話です。
中でも面白かったのは「十八時の音楽浴」ですね。毎日十八時になったら、洗脳すべく音楽浴をさせるというミルキ国でのお話ですが、国民は不老不死で、肉体は十代から二十代で固定されている状態ということもあって、そこいら中で淫靡なやり取りばかり。性別関係なしに女女かと思ったら、肉体改造して女もある男と男とか、さらには倒錯した想いなど、淫らなことこの上ないです。ただ、エロいようで、それほどエロくない微妙なラインがたまらない。
この音楽を発明した天才博士は小悪魔的なロリっ子で大統領の信頼も(そこそこ)厚かったんですが、嫉妬に狂った副大統領の策略にハマって……。まさか、こんな展開になるとは思わなかった。自業自得かと思いきや、最後は愛を感じられて、なんかいいです。
はじめは単独作品かと思っていたら、さりげなく第一章とリンクしてきて、思わずゾクリとさせられました。なるほど、これでアネットになるのかと納得。
この二つの物語をきれいに繋げて、昇華させた第三章の「漆黒のアネット」もまた素敵でした。優しさを感じる描写と、愛しさが伝わってくるやり取りに、心温まる思い。この雰囲気はいいですね。
あとがきによると『海野十三の「十八時の音楽浴」「火葬国風景」をベースに、if による喜劇的想像力に基づいた「跳訳」』だとか。本来繋がりのない短編を再構成させて、さらに「漆黒のアネット」を追加したらしいですね。海野十三の作品は未読のため、比べることはできませんが、面白かったです。
原作の力もあるでしょうけれど、著者であるゆずはらさんの腕もあるんだろうなあ。他の作品も読んでみたくなってきました。
十八時の音楽浴―漆黒のアネット
ゆずはら としゆき 海野 十三
ちなみに青空文庫で原作が読めます。ざっと眺めてみましたが、面白そうな作品が多いなあ。要チェックかも。
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- 永山祐介 2007-06-21 (木) 22:40
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「音楽浴」が「音楽欲」になってますよー。
- deltazulu 2007-06-22 (金) 05:56
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ああ、ほんとだ!修正させていただきました。
ご指摘ありがとうございます。







