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[伊坂幸太郎] 終末のフール

地球に小惑星が衝突する ― 八年前にその報道がされてから人々はパニックに陥った。
食料の取り合いで、道を歩いているだけで、人は争うようになった。
だが、ここ最近落ち着いてきているように見える。
人が減ったせいか、それとも警察の強行手段のせいか。
小康状態を保っている世界。小惑星が衝突するまであと三年……

世界が終わる前のひと時を描いた 8つの物語。さりげなく物語同士にリンクするところがあって、連作短編集の雰囲気もかもし出している。
どれもこれも印象的な物語ばかりで、コレが一番いい!という作品を選ぶのが難しいですが、ざっと感想を。

「終末のフール」
息子を亡くした事で、仲がこじれてしまった父親と娘の話。あと三年しかないのにこのままでいいのか、という葛藤が描かれるわけですが、頑固親父と頑固娘だからなかなか難しい。そんなふたりの間に入った気弱そうな優しそうな母親が実は……。
こんなのどかな人が隣にいてくれたらと思わせてくれます。

「太陽のシール」
なかなか子供が出来なかったのに、よりによってあと三年で世界が終わるというときに妊娠した妻。選択するということがものすごく苦手な夫は、生むべきか堕ろすべきか悩みに悩みまくるという物語。
どちらを決意しても後悔しそうな究極の選択。一番オチが素敵でした。

「篭城のビール」
かつてこの男の報道のせいで妹が死んだ。ならば小惑星の力で死なせやしない。俺と兄貴でこいつを殺す。そう決意した兄弟がマンションに乗り込んで……というお話。
ちょっと意外な展開だったけれど、兄の決意は立派でした。

「冬眠ガール」
両親が無くなったとき、自分が掲げた目標が三つあった。そのうち二つは達成したが、久しぶりに友人に会ってもうひとつ目標を掲げることにした。それは「恋人を見つける」こと……。
変わった発想と行動をする女性なんだけれど、決して不快ではなくむしろ微笑ましい気分にしてくれる。こんな女性と恋愛したいと心から思いたくなる。

「鋼鉄のウール」
日本チャンピオンが在籍するキックボクシングのジム。小学生の頃通っていたけれど、もう誰もいないだろうなと久しぶりに行ってみたら、会長とチャンピオンの苗場さんがいた。思わず通うことにしたが……
屈折する家族とストイックなチャンピオンの対比が描かれる物語でしたが、印象的なのは愚直なまでに真っ直ぐな言葉。

「明日死ぬって言われたらどうする?」
「変わりませんよ。ぼくにできるのは、ローキックと左フックしかないですから」
「それって、練習の話でしょ?というかさ、明日死ぬのに、そんなことするわけ?」
「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」

言われるまで気づかなかったかもしれないけれど、今ならはっきり言える。
そうだよ。変わらないよ、と。

「天体のヨール」
妻も死んだし、自分も死のうと思ったがロープが切れた。そんなとき、学生時代の友人から「小惑星を見つけた」という電話が。そうだな。あいつに会ってからでも死ぬのは遅くないか、と会いに行ったら……
珍しく男女のお話ではなく、夢に向かう男のお話。あきらめた者とあきらめない者の対比。ただ、どちらもさっぱりしているんだよなあ。男の友情ってこういう感じで書かれると、やられちゃうね。

「演劇のオール」
家族を亡くした私は、元演劇部の演技力を生かして、近所のおばあさんの家に行っては孫の役を、マンションの下の階に行っては姉の役を、離れたところでは母親の役を、マンションの隣では彼女の役をこなしていたが……
バラバラなお話が終盤に向けて一気に収束する。これぞ伊坂幸太郎と言いたくなる展開は見事すぎます。何かあったかい気持ちになれました。

「深海のポール」
変わっている父はマンションの屋上に櫓を立てている。津波が来ても逃れられるように。逃れられないのであれば、一番最後まで生きていられるように。変わったことをする父親が嫌いだったが……
かつて分かり合えないというよりわかり合いたくないと思っていた父親との交流話。集会の場面ではちょっとゾッとしましたが、ああいう奥さんでよかった。

全体を通して女性が魅力的だなと思いました。見た目じゃなく芯が強い女性を書くのがうまい。
絶望の中にわずかでも希望を見出した人たちの物語は、さらりと読めて深く心に残ります。すばらしい。

世界が終わりを告げる瞬間をあなたは誰と迎えますか?

終末のフール
伊坂 幸太郎

集英社(単行本)
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Comment:2

nanayo 2006-04-02 (日) 21:36

こんにちは。
「終末のフール」とってもいい作品でした。

太陽のシールの最後の台詞とか…気が利いていますよね。伊坂作品はこれだからやめられません。

ほんと、出てくる人々が普通なのに魅力的です。

deltazulu 2006-04-02 (日) 21:54

こんにちは。
出てくる人は魅力的な人たちばかりですよね。
意外なところに伏線があったりするので、びっくりすることも多いです。

そうそう。
この作品のホームページ(http://www.shueisha.co.jp/hillstown/)があることを nanayo さんのサイトで知りました。
情報ありがとうございます。

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