「お前にわかるか?」
喉の奥に笑い声のような音がこもる。
「何故かな。ガスパールを護ろうと思ったのだ。憎んでいたはずの……。妾から王位を奪った弟を」
唇が自虐的に歪んだ。表情は消え失せたままだ。
「妾が鉄球の技を。お前がマティアスから学んだ護りの技を教えるはずだった。あいつは『鉄球王』になりたいと、阿呆なことを言った。それを叶えてやりたいと思ったのだ。そのはずだっただろ?」
ベットの生地を握る指先に力がこもる。布が嫌な音を立てた。
「……それなのに。何故だ?妾はまた……。どうしてこうなってしまうんだ」
第一王女にして、『鉄球姫』とまで呼ばれるようになったエミリーと、彼女を守るべく護衛騎士となったグレンが、王位を取り巻く陰謀に巻き込まれていくシリーズの第四弾。今回は、ラゲーネン王国を襲った惨劇に打ちひしがれるエミリーとグレンが、別々の道を選び始めるお話です。強烈なラストを見せてくれた前作「花園のエミリー」の下巻的作品ですね。
いやはや、ぐさりと来るお話だなあ。あのラストの出来事を引き起こした犯人を知っている身としては、あまりにもスムーズに、他の人に疑いがかかっていく展開が恐ろしく思えます。ただ、諸侯たちの動きを見てると、必ずしも犯人の得になってるようには思えないんだけど……と思いながら読んでたんですが、目的はそっちだったのか。うわ……容赦ねぇ。
憎しみと憧れと。
かの人に対して複雑な思いを抱いていたグレンの動揺は見ていて痛かったですが、それ以上にエミリーの心の痛め方と八つ当たりする様が痛かった。抑え切れない罵倒すら痛々しく思えるほどで、たしかに、この様子を見ていられないのはわかるけど、でも、自分の居場所を探して、戦場へ向かったグレンは、薄情と思わなくもない。
二人の決別は、どちらも相手のことを思っているがゆえに、心苦しいものがありました。もし、ここでグレンがライオネルの話をエミリーに相談していたら……という、if を考えてしまう僕がいた。
初めての戦場で。初めて人を殺して。ガクガク震え、足手まといになりながら、生き延びるのが精一杯だったグレンが、とある敵将との戦いを機に、一気に花開いていく姿は、とても頼もしく思えましたが、そんなグレンの作り上げたムードを、一蹴するブッフバルト暴竜鉄騎兵のなんと圧倒的なことか。数に勝る敵を蹴散らす姿は呆然としちゃいましたよ。
ぎりぎりのラインでかろうじて生き延びていたグレンが、最後の一撃を浴びようとしたとき……待ち侘びた人の登場にじんわりくるものがありました。
悲しみを打ち払い、自らの手で守れる人がいることを思い出して、戦う決意をしたエミリーが格好よかったです。
いやあ、面白かった!
軍の入り乱れた戦いについては、描写を見てもいまいち映像が見えなかったので(読みながら映像を思い浮かべる派)、うーんと思ってたんですけど、1対1の描写はいいんだよなあ。特に鉄球姫と血風姫のバトルは、見ごたえありました。これは、いいライバルになりそうです。
戦いだけでなく、離れたことで、お互い抱えていた思いに、気づき始めたところもよかったですよね。エミリーの流した涙と、グレンの流した涙が、とても印象に残りました。
でもなあ、これがまた悲劇を呼ぶんだろうなあと思うと、素直に喜べない……といいつつ、わくわくしてくる。
続きがとても楽しみですね。
戦場のエミリー―鉄球姫エミリー第四幕 (集英社スーパーダッシュ文庫 や 2-4)
八薙 玉造
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