中学最後の夏休み。最近、微妙な距離になってる幼馴染の桜とお祭りに行った寅二は、ケンカに巻き込まれ、運ばれた病院で、今年の夏が最後かもしれないという医者の言葉を耳にした。実感が持てぬまま、ぐだぐだと過ごしていた夏が一変したのは、桜に許婚がいると知ったときからだ。
親同士が勝手に決めて、好きでもない人と一緒になるなんてと、桜の結婚をかけて、許婚である野崎信也と勝負をすることになったが……
今年が最後の夏である寅二と、親友のミイ、桜の幼馴染三人と、彼らの後輩あかりが、中学を卒業したら、許婚の家に入らされることになるという桜の自由を賭けて、金魚すくいで勝負をするお話です。
いやあ、面白かった。楽しかった。金魚すくいがこれほど熱い物語になるとは思いませんでしたが、何といっても青春の一ページって感じの空気がよかったですね。桜と寅二とミイという男二人と女一人の幼馴染関係の微妙な距離とかが、気恥ずかしくてなりませんが、みなで力をあわせて、金魚すくいをやる姿には、読んでいて楽しくなるものがありました。こういう夏っていいなー。
ただ、人物描写はちょっと痛かったかな。ミイとあかりのテンションの高さや許婚たる野崎信也のナルシーっぷりには、引きそうになるものがありましたし、寅二は寅二で、何かあると口だけは達者で逃げていく姿には、うーんと思うことが何度となくありました。っていうか、好きな人のために何とかしたいと思ったあとに、投げ出すってどうよと思わなくもない。
そんな中、一番印象に残ったのは、あかりの切ない恋愛模様でしょうか。いや、しょっぱなからテンション高くて、何かと寅二に付きまとう姿には、時に辟易するものがあったんですが、実は……というところで、評価大逆転。自分を変えるのにどれほどの努力が必要だったんだろうと思うと、結構グッと来るものがありました。ぶっちゃけ、ヒロインたる桜よりもよっぽどいい女だと思いましたよ。この前向きさは、見習いたくなるものがあります。
それはともかく、ナルシーな野崎信也が、こんな勝負を受けてしまうから恐ろしい。考えてみるまでもなく、まともな人はあまり出てこないし、イタいなあと思いながら読んでたんですが、だんだんと深みが出てくるから、侮れません。
あの場面で、寅二が父親を嫌う理由を話したときには、どうしてくれようかと思ったんですけど、やってくれるぜ。ちょっとだけ、野崎が好きになりました。
仲間とともに最後の夏を過ごし、好きな人のために頑張りながら、それでも、たったひとつのショックで、逃げ出そうとした寅二には、どうしようもないものを感じましたが、すべてをなげうって戻ってきたときの勢いのバカさ加減には、応援したくなるものがありましたよ。
一緒になって「ポイポイポイ」と声を上げたくなる気持ちよさがありました。
いやあ、楽しかった。ちょっと変だけど、実はまっすぐな青春物語でした。
惜しむらくはラストがなー。いや、わかるんだけど、わかるんだけど、そっちで終わったら、ちょっと……と思わなくもない。
ポイポイポイ
桑島 由一
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