この数ヶ月、何度同じ言葉を聞いたか。彼女の弟である現国王の病弱さを盾に取り、エミリーを焚きつける輩は後をたたない。いまさら何をと思いながらも、かつて王位を継ぐための努力が報われなかったことについて、エミリーの心には、もやもやとするものが残っていた。
そんな折に、親王派であるジョゼフは、国の争いの元になるであろうエミリー姫の暗殺を亡霊騎士と呼ばれるマイルズの一派に依頼して……
人間の力を爆発的に高める「大甲冑」を、無許可で利用する亡霊騎士に、第一王女であるエミリーが狙われて……というお話です。
お姫様なのにお下品極まりないエミリーの言動は、始めはギョッとしたものの、段々楽しくなってくるものがありました。お目付け役である爺やのマティアスや護衛騎士であるアルバート、装甲侍女のジュディなどなど、傲慢で乱雑な姫様と御付の人たちが繰り広げる からかいとツッコミ/ツッコまれがなんとも楽しく、和気あいあいとした雰囲気がとても良かったです。
そんな中、エミリー姫の心情が見えてくるんですが、弟が生まれた事で、王位継承者としての十数年の努力を捨てさせられ、権力を求める者たちに利用されることを拒み、辺境へと移住したにも関わらず、なお、彼女を求める輩がいるというのは、王女という立場の難しさを思い知らされます。
自由に動くことすらままならず、挙句の果てに、俗世を捨てて修道院へ行くことを爺やに薦められたときの怒りは、プライドを持つものなら耐え難いものがありますよね。
ただ、爺やたちの思いもわかるんだよなあ。まず大事なのは命であるとして、「盾」と異名をとるほどの武人であるマティアスが、誠実に彼女へ説く姿は、胸を打つものがありました。おどけることの多いお茶目な爺さんですが、どれほど姫を大切に思っているのか伝わってきます。恐らく、あと少し、あと少し、説得が早ければ、あるいは、亡霊騎士の動きがあと少し遅ければ、悲劇が起こることはなかっただろうなあ。
ここから始まる戦いは、心が痛くなるばかり。
「大甲冑」を身に着けた者の攻撃は、城壁すら突き破るほどの破壊力で、殴打された者の頭蓋骨を砕ける感触すら伝わってくる描写が、殺伐とした雰囲気に拍車をかけてくれます。頼むから無事で、という願いがどうなるかは推して知るべし。
絶望に打ちひしがれたエミリーが、下々の者と出会ったのは、大きなことでしたよね。命が助かったということもありますが、民のためにという言葉の白々しさを知るものだからこそ、どのような生き方をしているか知ったことは、彼女の心に大きなものを残したでしょうから。
今まで猪突猛進で、他人を省みることが少なかった彼女が、子供のために引き、世話になった人たちのために戦う姿に、成長と強さを感じることができました。
亡霊騎士とて、単に人を殺すだけの集団ではなく、彼らにもかつて騎士でありながら、今は権力者の犬となったという物語があるところが切ないったらないです。
似たような境遇であった者たちが、なぜ戦わねばならぬのか、胸が張り裂けそうな思いでいっぱい。血にまみれ、愛するものが傷つけられ、手を取り合った仲間は倒れ、後悔に押しつぶされそうになりながら、それでも戦いあわねばならない姿には、誰に向ければいいのかわからない怒りと悲しみが満ち溢れていました。
いやあ、すごかったです。結構分厚い本なんですが、あっという間に読まされる勢いがありました。殺伐として悲しいお話ではありましたが、それを乗り越えて希望が見えるというは良かったです。これは次なる作品が楽しみですね。
第6回スーパーダッシュ小説新人賞大賞受賞。
鉄球姫エミリー
八薙 玉造
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