ついにフリープログラムの日がやってきた。キャンディがなかなかの演技を見せ、ドミニクがとてもいい演技で上位に上がり、至藤が類まれな表現力で観客を魅了させた。いい具合にリングに熱が立ち込めたところで、リアとわたしの勝負が始まる。
だが、先にすべるリアの演技をモニタで見ていたタズサは、驚愕した。氷上に立ったリアは、すべての感情を捨て去った人形のような雰囲気を作り上げてきて……
オリンピックのフリープログラムから始まる物語ですが、まさかここまでやるとは思わなかった。世界の壁の高さというより、リアという存在の大きさと強さが、これでもかと描かれています。
考えてみれば、タズサはプレッシャーに弱かったんだよなあ。それを克服できたのは自信を得たからで、そのあたりが崩れると、こうなってしまうんですね。おそらく世界で戦う人はみな同じようなプレッシャーと戦っていると思います。観客を敵と感じてしまう恐ろしさは、想像を絶します。
アイスリンクの冷たさは、まさに地獄としか言いようがないですが、それでもスケートを止められないタズサの想いと苦しみに、幾度となく胸が苦しくなりました。これ以上、読むのが辛い、それでも読む手を止められない。そんな思いです。
決して一人で戦っているわけではない。それを忘れるほど飲まれてしまったからこそ、タズサは苦しんでしまったんでしょうね。見えないところで守ってくれている厳しきコーチ、マイヤ。憎まれ口を買って出たキャンディ。憧れの人のために何かしたいと思ったサーシャ。
気づきながらも動けないタズサにもどかしさを感じましたが、気づけたことには嬉しく思いました。
銀盤の醍醐味である演技プログラムは、今回もすごかったです。
日本代表ではあるものの、タズサの陰に隠れがちだった至藤響子の演技に泣かされました。
至高の存在であることを十分に発揮させたリアの演技には、凍りつくような興奮にさらされました。
決して諦めず、タズサにスイッチを入れたガブリーの神々しさには、戦慄させられました。
そして、タズサの体験した世界には……もうなんと表現したらいいのかわからないです。鳥肌と涙が止まりませんでした。
僕がフィギュアスケートに興味を持ったのは、このシリーズに感動させられたから ― 改めてそのことを認識させてくれた最終巻でした。ホント素晴らしい。この物語に出会えたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。
これで終わりというのが残念でありませんが(個人的にはタズサ・リアのペアプログラムとか見たかった)、次なる作品で、どんな物語を紡いでくれるのか、楽しみで仕方ありません。
銀盤カレイドスコープ〈vol.9〉シンデレラ・プログラム:Say it ain’t so
海原 零
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