「仕方ない?」
半ば幻惑された状態で、ヴィクトールは機械的に問い返す。
ユージィンは顔を寄せ、低く囁いた。あまりにも耳に心地よい声であったので、ヴィクトールは後に思い出した際、それが現実に聴いた言葉なのかどうか、わからなくなってしまった。
「仕方ないよ。だって、君のためにも、彼は邪魔だからね」
23世紀の火星都市。ブルー・ブラッドでないただの平民であるユージィンが、アフォルター家の娘・アンゲリカと婚約したことで、輝かしい将来と反面、士官学校の上級生から執拗な嫌がらせを受け初めて……、というお話。
アンゲリカに見初められて、その父・ハインツにも認められたのなら、てっきり、順風満帆かと思っていたら、なるほど、そう簡単に継がせることはないのか。士官学校内で、リンチを受ける姿は痛々しいですが、それでも笑っていられるんだから、どれだけの過去を過ごしてきたのか、想像するに恐ろしくなります。この暗い過去が、今のユージィンの強さになってるんだなあ。
それにしても、あれだけの目に合いながら、ユージィンの側にいるヴィクトールもすごいよなあ。このプライドの高さを、ユージィンは弱さと捉えていましたが、もちろん、その要素もあったと思うけど、それ以上に彼の強さになってるんじゃないかと思いました。ユージィンにやり込められながら、それでも立ち上がり強くなっていく姿は、個人的に好きです。
いずれ自分の好敵手になることは予想できていただろうに、ヴィクトールをつぶせなかったのは、ユージィン自身も、彼のことを好きだったからなんでしょうね。まあ、好意を抱いてたとしても、上級生の嫌がらせを策略で回避し、それどころか、矛先をさりげなくヴィクトールに向けるあたり、一枚も二枚も上手が。
このお話で一番印象に残るのは、野心を持つものの孤独でしょうか。ユージィンにしろ、ルナ・マーセナリーズ予備軍のひとり、ガラにしても、上を目指すがゆえに、圧倒的な孤独を味わうんですからやるせない。でもそれを背負う「覚悟」がある、ってところが、ヴィクトールとの差なんでしょうね。
まあ、ユージィンはどうでもいいとして、ガラにとってはこれからが辛くなりそうだ。
さてさて、上巻ではユージィンのいやらしさと、それでいて引き込まれる魅力をたっぷり味あわせてもらいましたが、ユージィン嫌い派としては、最後に思いっきりヘコむユージィンも見れたので、満足だったりします(ひどいな)。ユージィンとヴィクトールの進む道はわかっていますが、そこにいたるまでの道のりがどういう展開を見せてくれるのかは興味津々なので、下巻がとても楽しみ。
ブルー・ブラッド 虚無編〈上〉 (コバルト文庫)
須賀 しのぶ
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