「ところでウチには海賊がいるんだけどな。マサ、海賊には会いたくはないか?」
おじさんがそういってぼくにくれたのは、不恰好なラジオだった。
「これのどこか海賊なの?」
「なに、その気になれば会えるさ」
「海賊……海賊放送のことか」
ぼくはいつもおじさんの魔法にひっかかる。
風変わりなおじさんから譲り受けた不恰好なラジオ。ダイヤルを回していると、突然、人の声が耳にすべりこんできて、やがてその声は不思議な物語を紡ぎはじめて……「ぼく」こと雅之が、ラジオから流れる不思議な話に魅了されるお話です。
これは最っ高でした!
梅の花が鈴の音を響かせる「もしもあの花がすべて鈴だったら」、砂漠で石を探す男の「銀色の氷の下に」、人間と妖精の出会い「ひとりぼっちのミーデ」、しゃべる豆の冒険「ハッピー、ホップ、グリーン、ピー」、恋人たちのクリスマスイヴ「薔薇のあしあと」、影が消えた少女と影を見つけた若者の「銀月夜の影どろぼう」、注文の多い料理店みたいな夢を見たホラ吹き男爵の「悪い奴じゃないんだが」、雅之のおじさんの一日を描く「理想宮 K氏の一日」、乗り手を求めて海をさまよう時代遅れの帆船「星の水路」といったお話は、ちょっと不思議でたまに切なく、でも優しさと温かさに包まれる童話のような雰囲気で、すっごいいいんです。こんな体験ができるなんて、素敵なラジオだなあ。欲しくなっちゃいますね。
この一つ一つの話は、雅之の日常生活の間に語られるんですが、ラジオ話だけじゃなく、雅之話も魅力的なんだなあ。インドア派で、クラスメイトから枯れてると言われる雅之と、都会からやってきたクールな女の子の神田さんのやり取りは、読んでると楽しくなってきます。はじめはクールというよりは、壁を感じる神田さんだったのに、雅之の天然なのんびり雰囲気にだんだんと懐柔されていくところとかいいですよねぇ。たまに、素顔を見せてくれるんですが、これがとても可愛くて。中でも、負けず嫌いぷりから、帰り道にふたりで走りはじめるシーンが最高でした。
これからこの二人はどうなっていくのかとても気になりましたが、それはまた別のお話ってやつですね。
いやあ、ほんと良かったなあ。一年に一回は読み直したくなるような、そんなお話でした。超オススメ!
この作品を貸してくれたsoundseaさんに心から感謝したいと思います。
箱のなかの海 (コバルト文庫)
樹川 さとみ
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