「それは一種の幻想だよ、エーリヒ」
必ず、少し困ったように彼は言うのだ。
「私は以前、君をこの世にとどめるために、私のもてる力のすべてを使って君を縛りつけた。そのせいで、君はそのように思うんだよ」
ちがう、そんなことじゃない。しかしエーリヒの叫びは、届かない。
「私は君を利用すると言った。だから、君も私を利用するぐらいの心構えをもつといい」
23世紀の火星都市。ブルー・ブラッドでないにもかかわらず、大臣にまで上り詰めたことで、多くの敵を作ったユージィン。幼いころ、命を助けられた美しきユーベルメンシュのエーリヒは、ユージィンへ忠誠を誓い、副官となって彼を守ろうとするが、ひとつの失敗からユージィンを失脚させようとするものたちが動き始めて……というお話。
前作「ブルーブラッド」では、ユージィンがアルフォルター家に入り込む様子を、ヴィクトールの視点から描いていましたが、今回は元首になるまでの道のりを、エーリヒの視点から描くお話でした……って、あくまでメインはユーリヒなんだけど、共に行動してることもあり、何よりその圧倒的な存在感から、ユージィンの物語でもあるんだなあと思った次第。
それはともかく、ユージィンに忠誠を誓ったエーリヒ。地位を手に入れ、美しい妻を手にいれ、他人から見たら、間違いなく幸せだと思えることも、自分は幸せであると言い聞かせなければ、心の穴を生めることができないところに、彼のつらさがあったんだと思います。半身という存在は、やはりユーベルメンシュにとって大きなものなんだなあ。
マックスを前にして、またマックスもエーリヒを前にして冷静でいられない辺りが、お互いを意識させてることを伺わせるのに、頑ななまでに視線を合わせないところに、何ともいえない確執を感じる。
それにしても、「あの力」を持ってすれば、ユージィンなら順調に階段を上っていくかと思っていたら、どうしてどうして、なかなかうまくいかないもんだ。なまじ強力な後ろ盾があったから、それが崩壊したら、一気に畳み掛けられていくところは、ユージィンのことなんて好きでもないのに、思わず、こう、支えてあげたくなるものがあります。
これがユージィンの魅力というか魔力というか、引きつけるものなんだろうなあ。
ヘルという存在と、ブルー・ブラッドたちに追い詰められていく展開と。
たぶん、それだけなら、いくらエーリヒがユージィンに心酔しているからといって、あそこまで思い切ったことはしなかったと思いますが、彼自身も多くの苦悩を抱え自暴自棄になっていたから……。エーリヒを頼りにしながら、それでいて利用するユージィンの冷酷さは怖くもあり、一貫した姿と覚悟に、芯の強さを覚えます。
エーリヒにとって、半身であるマックスという存在と、愛する妻アミータという存在が、こんなにも重く圧し掛かるとは思いませんでしたが、それでも最後には、愛するものを抱きしめることができて、愛するものに感謝することができて。
ほんと良かったと思いました。
結果として二人がどうなったのかということは、キルゾーンで既に知ってはいましたが、それだけに、どう動いていくのか気になってページをめくる手が止まらなかったです。満足満足。
ブルー・ブラッド―復讐編 (コバルト文庫)
須賀 しのぶ
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