「なぜ、宮子が馨子さまの名前で呼ばれているのです」
「だからそれは、さっきおおざっぱに説明したでしょ?十日前、異母兄だという藤原兼通さまが、突然五条の邸に現れたの。で、そのながれで、わたしと宮子が堀川邸にくることになったのね。そのあとなんだかんだといろいろあって、いまはわたしが宮子で宮子がわたしなのよ」
「おおざっぱすぎますよ!なんだかんだの部分が、一番大事なところではありませんか」
名ばかりの貴族であり、毎日のカツカツな生活をしているけど、美しく聡明で、恋の経験は多ければ多いほど良いという、ちょっと常識はずれの姫君・馨子と、彼女の乳姉妹である宮子が、楽しく暮らしていたら、実は馨子は名門貴族・九条家のご落胤であることが発覚して、呼び戻されることになったものの、馨子のかかえる事情と、急な出来事にきな臭いものを感じたことから、宮子と馨子は入れ替わって、九条家に訪れて……というお話。
ライトノベルサイト杯で見かけて、手にとって見ましたが、これは楽しかった。破天荒な姫様と、彼女に振り回されながらも、姫様のために駆け回る宮子の真っ直ぐな思いが、微笑ましく、心を温かくしてくれます。
っていうか、この姫様の破天荒っぷりが、すごいんですよ。まさかイキナリ妊婦姿で登場するとは思わなかったけど、父親が誰だかわからないと言い出す恋多きっぷりは、どんな平安時代だとか言いたくなる。でも、さばさばした態度と、嫌味を言うような相手にはさらりと切り返す機転の良さから、どうにも憎めなくなっちゃうんだよなあ。
九条家が馨子に声をかけてきたのはなぜかといえば、帝のお側に就くはずの一条の姫が、失踪したことが原因で、言わば、身代わり的な位置づけて呼ばれたわけですが、これぞ貧乏暮らしから脱出するための好機とみて、妊娠中の自分ではなく、宮子を立てて、相手の懐にもぐりこんで行くんだから、まったく持って、馨子は逞しい限りです。宮子にはご苦労様としか言いようがない。
身代わりがバレたら大変だし、万が一、後宮にあがることになったら……と涙ぐむ宮子を口八丁でまるめこみながら、だったら、失踪の謎を解明して、一条の姫を探し出しちゃえばいいんじゃない?ってことで、謎解き物語になっていく展開は面白かったです。
お屋敷の身分高き奥様方から嫌味を言われつつ、女房たちから情報を仕入れつつ、毒舌の有子姫に意地悪をされながらと、宮子の苦労が耐えませんでしたが(馨子は当然要領がいいので、そのあたりはきっちり避けてます)、くじけそうになりながらも、前を向く姿が、とても良かったです。
愛する幼馴染の真幸との逢瀬で、毎回毎回、あと一歩ってところで邪魔が入るお約束にニヤニヤ。
最後にあざやかな謎解きで、いいところを掻っ攫う馨子が小憎たらしいですが、すべて納まるところに納まったので、良かったのかな……と思ったら、また宮子が苦労を背負うことになるのね。せっかく後宮行きを避けられたと思ったのに、残念でした。
まあ、おかげで、続編が出たら次郎の君にも会えることになりそうなので、個人的には良かったです。有子姫もなんだかんだ言いながらお友達になってくれそうだし、楽しみですね。
嘘つきは姫君のはじまり―平安ロマンティック・ミステリー (コバルト文庫 (ま10-2))
松田 志乃ぶ
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