彼は、わたくしを妻にしたくない……のだろうか……?
アディルの瞳の奥に、ふっと、もうひとりの少女の姿が浮かんだ。
仕立て屋『薔薇色』の、ミス・クリスティン。
先日の園遊会で、シャーロックが、ミス・クリスティンをかばい、彼女の手をとって人の間を駆け抜けていく姿を、アディルは見たのだ。
シャーロックとミス・クリスティンが知り合いだったなんて、まるで思わなかった……。
仕立て屋と公爵家の御曹司の身分違いの恋を描いたお話の第十弾(短編入れると十一弾)。今回は、シャーロックを振り向かせようとする美しき令嬢アディルが、薔薇色ではなく夜想にドレスを頼んで……というお話です。
ああ、もう、もどかしい!クリスが耐え忍ぶじゃないですけど、思いだけあればそれで十分と思い込もうとするあたり、なんとも切ないものがあります。まあ、ここで自分の気持ちを言えるような子なら、苦労はないわけだけど。
一方のシャーロックは、まったくもって、格好つけなところがあって、自分から連絡しなかったくせに、クリスから連絡来ないことに拗ねるんだから、まったくもう。ま、この距離感がとてもいいんですけどね。
この二人が出会ったきっかけでもあり、すれ違うきっかけにもなった「闇のドレス」は、なんとなく見えてくるものがありましたが、まだ全部見えてきたわけではないので、なんとも言えないもどかしさがあります。いったいクリスはどこまで……と気になるばかり。
過去と母のことを、シャーロックにも、そしてパメラにも言えないが故に、だんだんと危うい雰囲気を見せ始めていたクリスの思いがやるせない。いっそ、さっさと言ってしまえばいいのに。
まあ、そう思えるのは、パメラやシャーロックの心情が見えているからこそ、なんでしょうけど、あのとき、現実から逃げようとしたクリスに対して、きっちりと目を向けさせ、そして自分という存在がいることを告げたパメラは、とても素敵でした。ああ、本当に彼女には、幸せになってもらいたいと思うんだけど……。イアンとはどうなるのか気になるところ。
それにしても、クリスにとって母という存在は、大きいんだなあと改めて思うお話でした。信じたいと思う気持ちが、どの方面に走っていくのか気になるばかり。間違ったほうには行かないと思うんだけど、思いたいんだけど……クリスにしろ、アディルにしろ、もちろん、シャーロックにしろ、恋を胸に秘めた人たちは、激しいからなあ。
それでも最後に、お互いが自分の思いを自覚して、本当に抱きしめ合ったところは、よかったと思いました。
このままではいかないとわかっているけれど、それでも、この時だけは幸せでいてほしいと、願いたくなります。
恋のドレスと黄昏に見る夢 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
青木 祐子
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