「『薔薇色』のドレスで恋がかなうというのは間違いなんです。恋をしている方のお手伝いはできても、していない方に恋心をさしあげるわけには―」
「そんなの当たり前じゃない。恋はちゃんとしていてよ」
「なんですって?いったい、誰と」
「すてきな、あの方―あたしのおにいさま。いとこのシャーロック・ハニクールさまよ」
というリボンを愛する小さな淑女フリルと『薔薇色』の二人の出会いを描いた「恋のドレスとプリンセス・リボン」、失恋を繰り返しては詩人に恋愛指南を受ける力持ちな乙女の「黄色い花の法則」、舞台役者に熱烈に恋するエルと振り回される周囲の人たちの「さびしがりやの王子」、毎月同じ日に同じ行動を取ってる男の人が実は幻かもしれないと思いつめたダイアナの「あなたに眠る花の香」、娼館の下働きをしていたパメラとクリスが始めて出会った「扉をあけるマリア」の五編からなる短編集です。
いやあ、すばらしい。どの短編も『薔薇色』にドレスを頼みに来た人の恋を中心にしつつ、クリスとシャーロックのつかず離れずな絶妙の距離感を持ったやり取りも忘れないんですから、読んでてたまらなく恋したくなります。短編でこんなに魅せられるとは思いませんでしたよ。
うれしいのは、僕の大好きなリルとパメラが、とても目立ってたことですね。初っ端の短編で、恋敵であるはずのクリスに塩を送るリルの淑女っぷりにしびれました。クリスの思いに心を許したということもあるんでしょうけれども、シャーロックの気持ちにも気づいたからこその行動でしょう。間違いなくクリスよりも、シャーロックよりも大人ですね。彼女が成長したら、どんな素敵なレディになるか楽しみ。
パメラは要所要所で、クリスに対してシャーロックを意識させる言葉を投げかける縁の下的なものを見せてくれてましたが、「さびしがりやの王子」ではイアンといい雰囲気になってて、ああ、うらやましい。さすがのパメラも、突然の**には、ああなってしまうのか、という場面も面白かったですね。
明るく魅力的なパメラですが、『薔薇色』に来る前はどんな生活をしていたかということが記される「扉をあけるマリア」は、他の四編とは毛色の異なるシリアスな話でした。生みの親の顔すら知らず、顔立ちの綺麗さから娼館に連れて行かれ、客を取らせると言われたときに、クリスと出会えたのは、まさに神の導きとしか言いようがないですよね。よかった。パメラがクリスと出会えてよかったと、心から思いました。
いやあ、素晴らしかったです。主要人物の物語もさることながら、ゲストの人たちの恋も素敵でした。ゲストの話で一番好きなのは、表題作「あなたに眠る花の香」かな。「小さな小さな少女が、青年に恋をしました」という段落には、思わずグッとさせられましたよ。切なくも、温かくなるお話に大満足させられました。たぶん、このシリーズって、長編よりもこのぐらいの長さのお話のほうが合ってるんじゃないかなあ。
といいつつ、長編も楽しみですけどね。今後クリスとシャーロックの距離がどうなっていくのか楽しみです。
あなたに眠る花の香 (コバルト文庫 あ 16-16 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー)
青木 祐子
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