「け ―― 眷属?」
「そう、ゆえに、うぬ……む。そう言えば、まだうぬの名前を聞いておらんかったの。まあよいか。これまでの名前など、今のうぬにとっては何の意味も持たん。ともかく、従僕よ」
彼女は笑った。
凄惨に笑った。
「ようこそ、夜の世界へ」
友人を作らなかった阿良々木暦が、ひょんなことから委員長の中の委員長、羽川翼から吸血鬼の噂を聴いたら、その夜に、吸血鬼と遭遇して……という化物語の前日譚とも言うべき「こよみヴァンプ」な物語です。
いやあ、面白かったなあ。化物語で登場していた吸血鬼な幼い少女と暦には、どんな関係があったんだろうといろいろ気になっていましたが、こんなもの哀しいお話だったとは……。みなで不幸になることを選ぶという幸せに、切ないものを感じます。
それにしても、羽川さん。なんて素敵な女の子なんだろう。風のいたずらで暦にパンツを見られてからの交流が、楽しくて楽しくて。怪異と触れ合ったことで、戸惑いを覚えていた暦が、羽川さんに心を開いていく過程はほんと良かった。羽川さんがいなかったら、暦は怪異に飲み込まれてしまったかもしれないよなあ。
必要以上に、暦に対していろいろしてくれちゃう羽川さんを見ていると、時に怖いものを感じるものがありますが、たぶん、好意の要素も大きかったんでしょうね。彼女の思いがかなわない事を知っていると、切ないものがありますが、ふたりで繰り広げる戯言合戦は、とても楽しいものでした。
で、ヴァンプ。瀕死の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを助けるために……とは、優しさの方向が間違ってるような気もするんだけど、でも目の前に傷ついた人がいたら、やっぱり見捨てられないのが暦なんだよなあ。
眷属から人間に戻るために、忍野と羽川さんに助けられながら、試練を乗り越えて、さあ人間に、という時のあの出来事は、あまりにも残酷なものがありました。それまでに、キスショットとの仲が深まっている感じがあったから、余計きつい。当たり前のことなのに、突きつけられた現実に、怪異の恐ろしさを思い知りました。
いやあ、面白かった。
掛け合いの面白さでは、化物語には及びませんが、物語としての面白さに引き込まれました。誰もが幸せになる道を探して、全員が不幸になる結末は、辛くもあり、でも暦らしい選択だとも思いました。この後、ひたぎと出会えたのは、ほんと良かったなと思います。
できれば、ひたぎとのお話をもっと読みたかったけど……続きは難しいのかしら。
趣味100%とも120%とも言われてる作品だから、ひょっとしたら、何かの拍子に書いてくれるんじゃないかと、期待してみてたい気もする。
傷物語 (講談社BOX)
西尾 維新
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