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光待つ場所へ / 辻村深月

「あのさ。自分が天才だって気がついたの、いつ?」
「天才?」
「うん」
田辺は私をじっと見据えた後で、ふいっと視線を空に向けた。
「へこましてもらいたいって思ったことない?」

大学の「造形表現」の授業で見せられた、たった三分間のフィルムに、清水あやめは生まれて初めての敗北感を味わった……辻村作品の「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ぼくのメジャースプーン」「スロウハイツの神様」「名前探しの放課後」などに登場する人物が繰り広げるスピンオフ短編集です。「しあわせのこみち」「チハラトーコの物語」「樹木の街」の三編が収録されています。

スピンオフの楽しみは、何と言っても懐かしのあの人に再会できるということです。スロウハイツが大好きな僕としては、環と会えたことがどれほど嬉しかったことか(コーちゃんに会えなかったのは残念だけど!)。あとは凍りのくじらに出てきた多恵さんね。本当に郁也のことが大事だって気持ちが伝わってくる家政婦さんの言葉には、じんわりさせられる。ほんと素敵だと思った。

そんなこんなで再会を喜びつつ読んだ三編ですが、一番良かったのは「しあわせのこみち」かな。絵を描く才を持つ清水あやめが、田辺颯也という才に出会うお話。表面上は優等生だけれど、何て言うのかな、才能に恵まれたからこそ見えるものとでも言うのかな。普通でない感覚に悩むことがある、恥ずかしいと思うこともある。このぐらいであれば、まあ、ちょっと、こう、思い当たることもあったりなかったりして悶えるところもありますが、結果が結びついてくると……たぶん、僕ではわからないような感覚もあるんだろうなと思いました。

才能をもつふたりを見て。でも清水あやめの方は田辺と異なり、どうにも欲が見えなかったんですが、ひとたび決意してからの真っ直ぐさは、心にくるものがあったなあ。どんな人の賞賛よりも、たったひとりの言葉に、全ての思いを解き放ちたくなる恋が素敵でした。

チハラトーコの物語」は、まんま彼女のお話です。これまで自然とついてきた嘘と、本気で向き合うようになる過程において、環が重要な役割を持つとは思わなかった。このふたり、もしかしたらいがみ合いながら仲良くなれるんじゃないかと思ったけど、さてどうかしら。

樹木の街」は、松永郁也が中学校の頃のお話。メインは合唱コンクールで指揮者と伴奏の女の子の話なんだけど、ピアノといったら郁也も絡んでこないわけがなく、五人ぐらいであーでもないこーでもないとやっていくところが、とても青春っぽい。理帆子さんも出てきて嬉しかったよ。

登場人物たちのその後が見えるスピンオフはとても嬉しいので、またいろんな形で見せて欲しいな。

光待つ場所へ - 辻村 深月

光待つ場所へ
辻村 深月

講談社(単行本)
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