兄のようにはなれない。いじけているわけではなく、サッカーでプロからも誘いが来るほどの兄と比べる方がおかしいのだ。中学の三年間は頑張ったが、自分はこれ以上伸びないだろうと、新二は高校に入ったとき、サッカーを止めた。
次に何をやろうとか迷っていたとき、体育の授業で、中学時代にスプリンターとして全国までいった友人の連と共に走ってから、新二は連と共に陸上部に入ることを決意して……
中学時代は名を残した陸上選手だったのに、あっさり辞めてしまった天才肌の連を、もう一度走らせたいと思っているうちに、いつの間にか自分も走る魅力に捕らわれて、陸上を始めた新二の青春物語です。いやあ、いいですね。走りたい、走らせたいという感情が、気持ちいいぐらい伝わってきます。
サッカーをやっていたこともあって、走ることは得意であっても、陸上とサッカーでは走り方が違うので、体に染み付いた癖に苦労しながらも走り続ける姿が、きつそうで、でも楽しそうなんですよね。食べたものを吐き出すほどのきつい合宿に耐えて、仲間とのやり取りで元気を出して、タイムを縮めたときの嬉しさが伝わってくるところがとてもいいです。
また、ここの顧問の三輪先生がいいんですよ。決め付けたり、真っ向から否定せず、やんわりと言葉にすることで、生徒自身がどうすべきかを考えるよう誘導する柔らかさには、惹かれるものがあります。冗談みたいなことをよく言ってるので軽い感じがするけれど、しっかりと生徒を見てますよね。
走るのは好きだけど、走らされるのは嫌いという連は、天才肌というか偏屈なところがあって、嫌なことがあると逃げてしまうところがあるんですが、そんな彼が合宿から逃げ出したとき、新二がいった言葉が、もっとも印象に残ったシーンでした。
かっこいい人には、目標となってる人には、我侭かもしれませんが、下を向いてほしくないですよね。
この巻では、新人戦までの様子が描かれてて、そこそこの結果を出しつつも、連はブランクのせいで体力がなく、新二は力があっても経験不足ということで、まだまだこれからという感じですが、特に競合でもない高校で、ふたりがどのような成長をしていくのか楽しみです。
第4回本屋大賞受賞作。
一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--
佐藤 多佳子
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