『「特別な存在」なんてない。俺も、お前もそうだ。皆、何の価値も≪力≫もない人間。俺はそれが耐えられなかったから、勝負を恐れて引きこもった。でも今なら分かる。俺たちに、価値なんかない。≪力≫もない。元に戻っただけなんだ。でも、それで良いんだ。自分の人生に価値がなければいけないと皆思い込んで気負うから、どんどん社会はおかしくなる。そういう社会が、お前のような化け物を生んだんだ』
醜い顔のためいじめられていた孤独な高校生・八木剛士と、彼に備わった不思議な力に興味を持った美少女・松浦純菜が繰り広げる恋物語の第九弾。二人の間に深い亀裂が入った直後に、最愛の妹を襲った悲劇から復讐の念に駆られる剛士を描いて……と、際限ない鬱屈した思いを描くシリーズの最終巻です。
初っ端の新興宗教らしきものにハマった母を持つ姉と弟の章では、皮肉なラストに後味の悪い思いをしましたが、美穂の章では、穏やかに鬱ってる剛士が久しぶりに見れて、なんか良かった。卑屈っぷりは同じなんだけど、暴力に走らないせいか、読んでて気分が悪くなりすぎることがない……のは僕だけかしら。
自分がいるせいで、彼氏どころか友人すらろくにできない妹に対して、申し訳ないという思いと、まだ自分の手から離れないという歪んだ悦びを盛っていたら、そりゃ、妹を散らされたら、周りが見えなくなるわけだ。
肝心の悲劇の元である南部の思いもまた複雑なものがありましたが、これはある意味、非常にありふれた思いな気がしました。まあ、剛士の鬱屈っぷりを見たあとだからかもしれないけど、純菜や小田という女性を前にしたときと、剛士を前にしたときでぜんぜん思いが違うんだけど、だんだんと剛士が気になる存在になっていくところはわかる気がします。だからってそういう気持ちにはならないけど。
南部の言葉から、まさかあの人にまで繋がっていくとは思いませんでしたが、そこからの超展開は驚きまくり。一瞬ぽかーんとさせられて、さらにはエログロなものを見せられて、落ち着かない気持ちになったけど、「力」の真実には、ああそうだったのかと思う次第。
すれ違いから生まれた絶望と後悔は、どうにもならないぐらい重いものを感じましたけど、それでもあのとき剛士が言葉を告げることができたのは良かった……と思ってたのに、なんて救いのないお話なんだ。
でも、これが変にハッピーエンドになったら、かえって失望すると思うので、こういう終わりが良かったのかもしれませんね。
最後の、二人の心が通い合ったシーンが、いつまでも続いてくれればと、そう願いたくなりました。
いやあ、すごいね。
生まれ来る子供たちのために (講談社ノベルス ウF- 18)
浦賀 和宏
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