中学一年のとき、ぼくの斜め前座っていた彼は、二年になった今年、隣の席に座っている。いつもひとりで本を読んでいる彼、桑原祟は、ぼくらとは興味を持つベクトルが違う変な男だった。
ある日、部活で遅くなったぼくは、帰り道で、その桑原と出会った。普段は不機嫌な彼は、今日は妙にテンションが高いらしく、いつもよりも会話が盛り上がったが、彼と別れたとき、ぼくの目の前にいた男が突然倒れ、体に降り積もっていた桜の花びらを突きつけてきて……
中学生時代の祟の初恋を描いた「九段下の春」、高校時代の奈々の恋とも言えない恋を描いた「北鎌倉の夏」、大学時代の小松崎の失恋を描いた「浅草寺の秋」、御名形が遭遇した事件が、すべての謎を解き明かす「那智瀧の冬」の四編からなる短編集です。
各主要キャラクタの過去が垣間見えるのはいいですね。特に惹かれたのは、タタルの中学時代のお話です。やはりこのころから変わり者だったんだというところには、ニヤニヤしてしまいましたが、そんな彼が教師に惹かれるとは意外でしたね。ひょっとしたら、憧れかもしれないんですが、このときの先生の指導が、後のタタルの思考回路にも影響を与えたんだなと思わせる描写を読むと、出会いとは、人に対して大きな影響を与えることがあるんだなと思わされましたね。
はたして、先生のほうはタタルのことをどう思っていたのかはあかされていませんでしたが、ふたりで、和歌について語り合うところは、妙に色気を感じたのは、話題のせいもあるのかもしれないけれど、漂う空気のせいもあったような気がします。
切ないという意味では、小松崎の話が一番切なかったかもしれません。久しく会っていなかった恋人と呼べる関係の女性の姉が、見知らぬ男と心中したという知らせから始まるお話です。
好きな人が動転していたら、側にいてやりたいと思う気持ちは誰しも持っていると思いますが、そのことが真実を知ってしまうことになる展開は辛いですね。自分の原動力にもなった少女の言葉で、鼻のムズつきを覚えてしまったところは……悲しい限りでした。
奈々の話は、恋とも言えないような恋話だったなあ。性格が今とまるで変わらなかったこともあるけど、相手が自分勝手すぎるような気がして、ちょっとね。っていうか、奈々のファーストキスが……というショックが大きいだけかもしれないけど。
とまあ、恋愛要素についてはいろいろ楽しく、歴史話も面白かったです。事件は……まあ、小粒ではありましたが、最後の短編で、初めて見えてくるものがあるところは、おお、と思わされました。
ひょっとしたら、この後に出てきたりするのかしら。記憶に自信がないので、すでに出てきてたとしても気づいてないわけですが、今後このシリーズを読むときには気をつけてみようと思います。
個人的には沙織の恋話も読みたかったなー。
QED~flumen~九段坂の春
高田 崇史
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