あと五分、ここにいたら彼に会えるかもしれない。でも会って何を話せるんだろう。自分から突き放してしまったというのに。
町を歩くと、ふと彼と一緒にいた日のことを思い出す。懐かしくて、懐かしくて。でも、あのときは、そんな大切なことだとは思っていなかった。もう二度と戻れない。
そんなとき、かつて彼女を轢き逃げした相手から、手紙が届いて……。
前作で、八木にあれだけのことがあったので、はたしてどうなるのかと不安と期待に胸を躍らせていましたが、純菜方面から描かれていたので、ちょっと拍子抜けな気分。とはいえ、今まで語られていなかった純菜の想いが、鮮明に見えてきたのは嬉しいですね。
純菜には、明るく活発な女の子というイメージがあっただけに、妄想に浸ったり、過去のことを反芻するところは、何とも意外でした。よく考えてみたら、僕が持ってるイメージは、八木の目で見たものだったので、実際は異なるというのは当然かもしれません。
八木に対して優越感や哀れみを感じていたなどといってましたが、たしかにそう感じる振る舞いもあったけれど、彼の「あの言葉」を聞いたときには、紛れもなく恋に落ちたんだろうなと思いましたね。だからこそ、突き放してしまうぐらいショックを受けたんだろうなあ。他の男に媚を売ったり、危険と知りながら自暴な行動をするところは、痛々しいものを感じますね。彼に呼び出されたところなんかは、絶対後悔するからやめておこうよ、とドキドキでした。
八木の吐き気を催すぐらいの苦悩を読んでいる身としては、ちょっと物足りないものがあるけど、等身大の純菜が見えてきた気がします。
八木との話とは別に、純奈を轢き逃げした相手が投函した手紙から始まる事件的なお話は、久しぶりにミステリー的な要素でしたね。それほど濃いものではなかったですが、なぜ今ごろというところが、非常に興味深かったです。何気に、純奈も死を呼び寄せる人だよなあ。
無鉄砲に見える行動や「もう一人の私」とのやり取りを読んでいると、いろいろと溜まるものがあったんですが、それが最後に吐き出されるという展開は、いいですね。彼がきてくれたと感動する純菜を見て、やっぱり素直になったほうが可愛いと思いました。
恋する乙女の複雑な気持ちがありましたが、ひとまず八木との関係は修復に向かうのかな。いや、まだマリアのことがあるし、すんなりとはいかないのかしら。
純菜が揺れている間、八木の方はどんな状態だったのか気になるだけに、次作ではぜひ八木視点での話をお願いしたいです。
世界でいちばん醜い子供 (講談社ノベルス ウF- 15)
浦賀 和宏
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