「まことに……私で、よろしいのですか」
すっと正之の背が伸びた。
「安井算哲よ。天を開いてに、真剣勝負を見せてもらおう」
晴海は、たまらず衝動的に座を一歩下がり、平伏し、
「必死!」
叫ぶように応えた。
江戸時代。安井算哲を父とする碁打ちである渋川春海は、碁に飽き、算術に見入られていた。ある日、神社に奉納されている絵馬に、算術を記す「算学奉納」の難問を瞬時に解いた「解答さん」に驚嘆して、彼に挑みたいと算術の問題を作り上げたが……碁打ちにして数学者の渋川春海が、二十数年をかけて挑んだ日本独自の暦を作り上げるまでの物語。
これはすっごい面白かった!読んでいる間、どれほど興奮させられたか、どれほど涙ぐんだことか。ああ、素晴らしい!
「明察」とは「正解」の意味で、算術を学ぶものたちが、必死になって問題を作り上げ、それにたいして挑むやりとりの中で、出てくるんですが、この挑みっぷりがたまらない。才のある人ほど、さらなる才を見つけては、驚き、恐れおののき、でも挑みたくなる。そんな気持ちが伝わってくるやり取りにしびれるばかりでした。
算術だけでなく碁打ちでもあった春海は、本因坊を継ぐ者たちともいろいろあったりするんですが、そんな中、同年代の本因坊道策が、春海へつっかかる様が、何とも微笑ましいものがありました。確かに、自分に匹敵する力を持つ人が、碁以外のことに熱中してたら、文句の一つもいいたくなるよなあ。
彼だけでなく、会津藩士の安藤や老中の酒井など、気づけば春海に期待を寄せてくるんですが、彼は自身を過小評価しているため、なんでだろうと悩んだりするけれど、一番はやっぱりその熱心さなんですよね。算術であったり、あるいは算術を生かした天体観測に、のめりこんでいく姿は、自信のなさとは裏腹に、周囲を惹きつけるものがあったと思います。
また彼を先導する人たちが、とても魅力に溢れていて、特に観測隊を率いる建部昌明と伊藤重孝のおじいちゃんふたりは、歳を感じさせない好奇心と向上心を持っていて、老いてますますな人たちに圧倒されました。ああ、こんな人が傍にいたら……負けていられないと思いますよね。
先が短いことを知っているおじいちゃんたちですが、それでも晩年に、春海のような、道を任せることができる人と出会えたことは嬉しかったんだろうなあ。何かと彼を構う姿に、そんな思いを感じました。
このお話には、先人の為したことと、それを引き継いて先へ進むという、期待と責任と覚悟が、これでもかと描かれていて、はじめは弱気だった春海も、期待を背負うごとに成長していく様が見えてもう……そりゃこんな覚悟を見せられたら、水戸の黄門さまも支援するわけだ。鳥肌が止まらない。
挫折にしたって一度や二度ではないけれど、その度に叱責を受け、支えられて、覚悟を決めて。これまでの人生経験すべてを駆使して、これまでより正確な暦を作り上げ、それを朝廷に認めさせていく展開に、感動させられました。
さりげなく描かれている恋も良かったなあ。はじめはちょっと、ショックなところもあったけれど、最後には結ばれて、また奥さんの知ったがあったからこそ成し得たと言うところも素敵でした。
いやあ、面白かった。何度でもいいます。ほんと面白かったです。文句なしで今年No.1の一冊でした。超オススメ!
天地明察
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)(単行本)
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ちなみに、「天地明察」の執筆のきっかけなどを、冲方さんが語っている動画が公開されているので、興味がある人は是非。
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