女将は改めてフミを見下ろした。我ながら、やきが回ったとしか思えない。
日本ならまちがいなく売れない娘だろう。しかしここは哈爾濱だ。何があるか分からない。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれないではないか。
期待はしない。断じてしていないが、ひょっとしたら。
明治末期。母のような一流の女郎になるという夢を持った十二歳の少女フミが、自ら人買いに買われて、日本から哈爾濱(ハルピン)へ渡るお話です。
これは面白かった!
十二歳の少女・フミが女郎を目指す姿には、痛々しいものを感じてたんですけど、姉代わりのタエと共に、下働きをしながら、夢をつかんでいく展開は、引き込まれるばかり。
フミだけじゃなく、「酔芙蓉」にいる他の女郎たちも魅力的なんです。女郎をやっているということは、たいてい借金で縛られてるわけですが、それでもプライドを持って色を売る姿には、尊敬せざるを得ない。色気だけ上り詰められないことをまざまざと知らされました。
中でも印象的なのは、タエだなあ。男を知らぬが故に、女郎になることをおそれていた少女が、水揚げの日からの変容は……すごいものがある。日に日にきれいになっていく様に、女のすごさを感じる。
さてさて、肝心のフミ。愛嬌がよく頭も良く、時にずるがしこいところを見せながら、チャンスを掴んでいく様にはとても魅了される。女郎を目指すといいながら、芸を忘れられず……。そんな彼女の心を見透かすようなチャンスを与えてくれたタエにやられた。やっぱり彼女はお姉さんだなあと思うばかり。
さらには、そこで初めて本格的に見せた舞の描写がもう!目に見えるような、思いが伝わってくるような、そんなシーンに、じわっとくる。
ここからフミが芙蓉となっていく話は、相変わらずなおきゃんさを感じながらも、大人になった思いを見せてくれるようになり、これがまた楽しく、切ないんだ。旦那となってくれた黒谷への複雑な思いに、女としてのプライドを見せて奮闘する様はクスッとなるけれど、あまりそっちにいかないでと読みながら思ったのは、山村の話があったからなんだよなあ。
十二歳の頃に出会った男。フミがそんなに惹かれた理由はよくわからない。でも、一緒にいてこれ以上ない嬉しさが伝わってくる様を見ていると、ああ、これが恋なのかと思わされる次第です。再会してからの思いが募っていくところは、彼の素性を考えると……きゅんとなる。
三角関係……というのとはちょっと違うかもしれないけれど、揺れる思いに心奪われる日々が続く中、彼女の決意を促したのは、たぶん、ひとつの時代が終わる舞をしたからじゃないかしら。芙蓉でありフミである彼女は、きっと舞を忘れられなかったと、そう思います。このシーンには、涙ぼろぼろになった。
最後はわかっていても切ないものがあったけれど、後悔しながらも彼女は、きっと成長し続けていくとそう思います。
いや、ほんと面白かった。でももっと読みたかった……と思っていたら、2009年10月からは第二部の連載が始まるのだとか。うわ、すっごい楽しみです。要チェック。
要チェックと言えば、sari-sariの携帯サイトでは、外伝的なタエの話が掲載されているそうなので、忘れないようにしないと。
芙蓉千里
須賀 しのぶ
角川書店(角川グループパブリッシング)(単行本)
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