「根拠がそれだけじゃ早計じゃない?俺、一応男だよ」
「拾ってって言ったのそっちじゃない!」
さやかは駄々を捏ねるように叫んだ。
「拾っちゃったら情が移るじゃない。このまま出て行かれたら、それでもう二度と会えない人になったら寂しいって思っちゃったんだから仕方ないじゃない!そのうえ人の胃袋までがっちり摑まえてさ」
道ばたに行き倒れてた男を、魔が差して連れて帰ったら、彼のまめさに思わず惹かれて同居を持ちかけて……旬な野草を見つける道草と、美味しくいただく幸せをかみしめたくなる恋物語。
これは面白かった。
拾った男をあっさり家に上げてしまうのは、タイミングという名の魔が差したとしか言いようがないかもしれませんが、その後、彼を引き留めたのは、間違いなく彼の料理にやられたからですよね。胃袋を満たすというのは、人を引きつけるものがあるんだろうなあ。
それでも、はじめは家事をやってもらえたら、ぐらいに思っていたと思うけど、あるひとつの出来事から、彼そのものに興味を持ち始めていく、その展開が素晴らしい。
そのとある出来事というのが、タイトルの由来にもなってる植物。
道に咲いてる花とか、きれいだなと思っても名前までは知らなかったりしますが、彼がとても詳しくて、しかも採ってきた旬の野草を料理してくれたら、とても美味しかったら……そりゃ、一緒に散歩に行って採りにいきたくもなるし、彼にも興味を持ちますよ。
フキノトウ、ツクシ、タンポポ、ノビルなどなど、時に聞いたこともないような植物もでてきますが、読んでるうちに親近感がわいてくるし、何よりとても美味しそう。
週末ごとに出かけるワクワクさや、宝探しのような植物の見分け方、そして美味しくいただくというのは、読んでると白いご飯がほしくなります。こういった日常というのは、些細なことのように思いますが、でも幸せいっぱいになれるのは、特別な人が一緒にいるから、ですよね。
幸せと、でもどこか不安が漂う二人の関係は、突如として終わりを告げることになるんですが、悲しみを乗り越えるためになぞる毎日は、とても切なくて……でも、最後にちゃんとハッピーエンドにしてくれるから、嬉しいですね。
いつまでもお幸せに。そう言いたくなる物語でした。
オススメ。
ちなみに作中に出てきた道草料理のレシビは、巻末に収録されています。はたしてどんな感じのお味なのか。機会があったら挑戦してみたいですね。
植物図鑑
有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング)(単行本)
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