「あんた、俺を一体いくつだと思ってるんだっ!五十も過ぎたおっさんが古女房との馴れ初めなんぞ隊内紙でべらべら垂れ流せるか、みっともない!」
「今村二佐は奥様との馴れ初めをみっともないと思ってらっしゃるんですか?」
有川作品でこのタイトルですから、そりゃもうどんなお話かはわかるってもんです。自衛隊絡みのラブコメが以下のとおり収録されています。
- 第一空挺団の今村の元にやってきた隊内紙の取材内容は、妻との馴れ初め話で……「ラブコメ今昔」
- 自衛官でオタク。でも素敵が笑顔の光隆と付き合うことになった歌穂は、彼が遠征することを知り……「軍事とオタクと彼」
- 女たらしと呼ばれた広報官の正屋が、映画の撮影に協力することになったが、王様な態度のディレクターのおかげで、撮影が危うくなり……「広報官、走る!」
- 花形であるブルーインパルスのパイロットである夫がモテるのはわかる。だが、夫に近づいた女は、わたしを狙い始めて……「青い衝撃」
- 上官の愛娘に恋をして。どうしても言い出せないまま二年が経ったとき、悲劇が待ち受けていて……「秘め事」
- 「ラブコメ今昔」で取材側だった元気印の千尋と吉敷の恋を描く「ダンディ・ライオン ~またはラブコメ今昔イマドキ編~」
個人的に一番良かったのは、表題作「ラブコメ今昔」かな。
結婚なんて上官の仲介がなければ、なかなかできない奥ゆかしい時代に、お見合いで知り合った相手と、少しずつ距離が縮まっていくところが、すごい良かったです。相手の可愛らしさがとても伝わってきて、そりゃこんな馴れ初めを人に語るのは恥ずかしいよなあと、取材から逃げ回る気持ちがわかりました。
そんな逃げを許さない広報の元気娘の千尋の追い詰め方がまた素敵で、奥様をも味方につけるあたりがとても策士でしたが、照れながらしぶしぶ口を開いた今村二佐が、最後に自衛官としての心を見せてくれるあたて、思わず背筋が伸びたりする。こういうところが、格好いいとツクヅク思う。
もうひとつの好みは「広報官、走る!」です。
自衛隊が映画撮影に協力することになって、女たらしと呼ばれた広報官の正屋が、撮影陣との窓口になってスケジュールの調整を立てて、でも業界人たちは予定なんてまるっきり守ってくれないという状況だから、撮影人側の窓口となったADの女の子が不憫で……気づけば、彼女をサポートするように動くようになっていく正屋の姿にニヤリとしちゃいます。
女たらしと言われるぐらい、コミュニケーションの得意な正屋が、肝心なときに何もいえないんだから、ああ、もう、いろいろくすぐられて、あー、もうごちそうさま!
「オタク」話で出てくるキャリアウーマンな女性の、笑ってしまう行動力とか、ストーカー女のちょっと怖いお話とか、自衛官ならばありえる悲劇を間近にするお話とか、甘いだけじゃないところもあるけれど、そこいら中で、ニタニタさせてくれるものがあって、ああ、楽しいと思いました。
思いましたが、でもでも、どこか物足りなく感じちゃったなあ。有川さんなら、もっと転げまわるようなお話が……と思ってしまう時点で、もはや普通のラブコメに戻れない体になってしまったのかもしれない。
ベタ甘物語がここまで好きだったとは、自分でも驚きですが、もっともっと、外で読めないぐらい、転げまわりたくなるぐらいのベタ甘なお話が読みたいですね。「空の中」「海の底」などのスピンオフもあってくれたら、すっごいうれしいので、次に期待したいと思います。
ラブコメ今昔
有川 浩
角川グループパブリッシング(単行本)
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