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[米澤穂信] 遠まわりする雛

「折木さん、傘を持ってくれませんか?」
何の話かと思ったら、千反田の家の近くの神社でやる雛祭りで、お内裏さまとお雛さまに傘を差しかける人が必要なのだという。正直、気は進まないのだが、困っている千反田の様子を知って、奉太郎はついつい引き受けてしまった。だが、当日、雛たちが歩く道順にトラブルが発生して……

学校の七不思議の噂を聞きつけた千反田の「気になります」を断れなかった奉太郎の苦肉の策の「やるべきことなら手短に」、厳格な先生が授業について勘違いしたのはなぜかという「大罪を犯す」、古典部のメンバーが旅行先で幽霊を見かける「正体見たり」、教頭の校内放送から何があったのか推理する「心あたりのある者は」、初詣に出かけた先で閉ざされた扉をいかにして開かせるか「あきましておめでとう」、伊原の作ったバレンタインのチョコレートが行方不明に?な「手作りチョコレート事件」、そして上記あらすじにある雛祭りのトラブルを描いた「遠まわりする雛」からなる七編からなる短編集です。

いやあ、これはすばらしい青春ミステリーですね。時系列に並んでる物語を通して読むと、古典部に入ったころを描く一編目の短編と、約一年後である最後の短編で、モットーは変わらずとも、奉太郎の千反田への気持ちが、少しずつ変わっていってることがわかります。いや、はじめから気になる存在ではあったんでしょうけれど、それがより自覚的になっていったというところかな。
部員四人の繰り広げる空気も楽しいですが、やっぱり、折木×千反田の距離の描かれ方が一番いいですね。

日常の謎物語も忘れちゃいけないですが、その中でも、一番好きなお話は「心あたりのある者は」だなあ。千反田の挑発に乗った折木が、何の変哲もない校内放送の呼び出しの意味を推理していくんですが、強引なところもあったと思ったら、おお、とヒザを打つところもあったり、かと思えば千反田だって負けじと鋭いツッコミを入れてくれるおかげで、「九マイルは遠すぎる」みたいな、推理を重ねていく過程の面白さが存分に味わえました。ああ、楽しい。もっと読みたかったよ。

どちらかといえば、結末がちくりと痛いお話が多くて、それはそれで面白いんですが、トリを飾る「遠まわりする雛」を読んだときは嬉しくなっちゃったなあ。
由緒正しき雛祭りのお手伝いってことで、場違いなところにきて不安に思う中、ようやく千反田と話すことができたのに、余所行きの態度を取られたことで、ショックを受けるんですから、もう、ね!ここと、祭りが始まってから、千反田の後ろをついていく奉太郎の心境を読んでたら、たまらなく甘酸っぱい気持ちにさせられました。忘れずに写真を奉太郎に渡してあげてよ、里志くん。

祭りが終わってみれば、いつもの千反田がいてくれて、だから嬉しかったんだろうなあ。あとちょっとで、思わずって言葉を口に出しそうになったんですから。いや、それが言えなかったことのほうが大きいですね。一つ前の短編「手作りチョコレート事件」があったからこそ、この心境が胸に響いてきます。
いつか、本当の意味で言うことができたら……と、胸の内で想像しているだけで、温かい気持ちにさせられてしまいました。

いやあ、素晴らしいですね。羨ましくも、見守っていたくなるような青春なやり取りが、ほんと素敵でした。たっぷりと堪能させていただきましたよ。今後ふたりの距離がどうなっていくのか、とても楽しみです。
超オススメ。

遠まわりする雛 - 米澤 穂信

遠まわりする雛
米澤 穂信

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Comment:2

藍麦 2007-10-17 (水) 22:24

「心あたりのある者は」は、やっぱりケメルマンを連想されましたか。

これは傑作ですね。

deltazulu 2007-10-18 (木) 19:18

やっぱり、こういう話だとどうしても連想してしまいますが、魅力たっぷりでしたね。こういうお話大好きです。

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