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[有川浩] クジラの彼

ただの数合わせで行った自衛隊の人との合コンで、聡子は思わぬ拾い物をしてしまった。顔が好みで、ソツのない冬原と付き合うことになったのだ。でも、彼は潜水艦乗り。呼び方が「冬原くん」から「ハル」に変わった頃、ハルは航海に出て、そこから遠距離恋愛が始まった。
連絡などめったに取れない。次の連絡は数週間後か数ヵ月後か。潜水艦乗りの彼女は辛い……

という表題作「クジラの彼」を含む 6編からなる短編集は、すべて自衛隊員が関係する恋愛物語です。

海の底」で出てきた冬原の彼女の視点から描いた「クジラの彼」は、潜水艦乗りとの恋愛が、過酷な遠距離恋愛の中でもさらに過酷と思わせる物語でした。相手の苦しさがわかっていたからこそ、「我慢できなくなったら別れていいよ」という言葉を伝えたんだろうけれど、それでも待っていて欲しかったという、冬原の気持ちが見えたとき、ああ、あまり表に見せないけれど、本当に聡子が好きなんだなあと思いました。そりゃ「クジラ」に「我慢したい」だもんね。離せないよ。
聡子の内面ばかり語られるのに、逆に冬原の気持ちが見えるところが、とても良かったです。
好きな人が相手だからこそ、待つほうも、待たせるほうも、大変なんですよね。

この待たせるほうの側の気持ちを書いたのが「有能な彼女」ですね。「海の底」で冬原とコンビを組んでた夏木が、あの後、望と付き合って、という物語です。自分よりも他人のほうが、一緒にいる時間が長いっていうのは、辛いですよね。相手が有能な技官でさらに容姿も端麗だからなおさらでしょう。不器用な自分を自覚しているだけに、自信を持てない気持ちはよくわかります。
「海の底」の時とは、望の性格が変わって気の強い女性になっていましたが、何でこんなに可愛いんでしょう。ああ、いいなあ。こんな人が側にいてくれたら、大変そうだけど、嬉しいですよね。

航空自衛隊の次世代輸送機のために航空設計士として奮闘する宮田絵里の「ロールアウト」は、必要だけど軽んじられる存在「トイレ」の物語でした。いや、確かに使う人にとっては切実な話ですよね。ここに着目するか!という点でとても秀逸だと思いました。
恥ずかしい話だけに、何気にセクハラなお話でもありましたが「あなたが戦っているんなら輸送機ぐらい何度でも持ってきます」の殺し文句に悶えました。

国防レンアイ」は、女性陸上自衛官三池舞子と同期でパシリの伸下雅史のすれ違い恋愛物語。舞子が失恋する度に愚痴を聞かされて、でもそんな相手に恋心を持つというのは、比較的良くある話ですが、ここまで無防備な人が相手だと、男性としては辛いよなあ。 と思って読んでいましたが、女性は女性でいろいろあるのね。 ヘタレのように見えたけど「伊達や酔狂で国防やってねえんだよ」の熱さと、書き逃げの素敵さにニンマリ。

自衛隊の基地から隊員が脱走することを示す「脱柵」。新隊員が恋人との距離に耐えられなくなり、ふとやってしまう衝動はわかりますが、それを未然に防ぎ、若い隊員を諭すお話です。ああ、これはいいなあ。持ちネタにある相手のたわいない嘘が何気に残酷だったりしますが、最後のさらりと放たれた一言に、超絶に胸キュン。
短いけれど、素敵にきれいなお話です。

トリを飾った「ファイターパイロットの君」は、あの「空の中」のその後のお話でした。パパとママが始めてチューしたところは?という子供の質問に、パパである高巳が光稀との初デートを回想するお話です。
そこまでドッグタグにこだわるって、どんな生活をしてきたのかわかりませんが、時折見せるデレっぷりがたまりません。名前を呼ぶのも躊躇したり、彼氏と言われて顔を赤くするところとか、ああ、もう素敵すぎです、光稀さん。

高巳も相変わらずかっこよくて、周囲の言葉に心を揺らす子供に対して、母親の愛情をしっかりと伝えた言葉「迷わなかった」には、目頭が熱くなりました。素敵だよ、パパ。
子供への愛情と、お互いへの愛情がとても伝わってくる物語には、末永くお幸せにといいたくなりますね。

どの話も要所に現実が見えるあたり、切ないものがあったりしますが、ラブがあれば乗り越えられる、最後に愛は勝つんだと思わせてくれる物語ばかりでした。
今まで有川浩を読んだことある人ならもちろん、ない人もぜひ手にとって欲しいですね。
オススメ。

クジラの彼 - 有川 浩

クジラの彼
有川 浩

角川書店(単行本)
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有川浩 / 文学・歴史・その他

追記: 2007/02/12
サインもらっちゃいました.
有川浩クジラの彼サイン

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Comment:3

hobo_king 2007-02-05 (月) 08:51

露骨に読みたくなりますね。しかし、しかし値段が・・・。
それにしてもdeltazuluさんの読書量と感想をまとめる早さにはもう脱帽です。

deltazulu 2007-02-05 (月) 20:02

面白いですよー。値段はちょっとアレですけど、財布が許すのであれば、ぜひぜひ読んでみてください。

>それにしてもdeltazuluさんの読書量と感想をまとめる早さにはもう脱帽です。
たんに暇人なだけですヨ (^^;

2011-09-10 (土) 20:02

クジラの彼・有能な彼女は、海の底の後日談何だと初めて知りました!
海の底って、すごい好きな小説なんです

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